2020年3月17日火曜日

第2351話 驚愕のラインナップ

西永福をあとにして永福町へ。
駅前に見覚えのある「大勝軒」の雄姿が―。
東池袋の「大勝軒」が世を席巻するより前。
1980年代半ばに初めて訪れ、
麺3玉入りのラーメンに四苦八苦した覚えがある。
あの頃の東京で「大勝軒」といえば、この店のこと。
永福町の代名詞ですらあったのだ。

懐かしみを感じつつ、北へ延びる商店街を往く。
大宮八幡前の交差点を右折。
方南通りを東へ向かい、方南町に到達。
ここも西永福同様、J.C.にとって馴染みの薄い土地だ。

「やしろ食堂」の引き戸を引いた。
厨房にオヤジさん、フロアは女将さん、
還暦をとっくに過ぎたと思しきご夫婦の切盛りである。
テーブルで盛り上がるグループを尻目にカウンターへ。
女将さんの手すきを待ち、スーパードライの大瓶を通す。

料理の品揃えが半端ではない。
目の前に並んだ、いわゆる大皿料理だけでも20品目以上。
しかもここに生モノ、焼きモノ、揚げモノは含まれない。
仕込みは下手な寿司屋どころでなく、
これを老夫婦二人だけでこなす。
感嘆を通り越してもはや驚愕。
比べてみりゃ、国会議員の夫婦はつくづくヒマで楽だヨ。
だから悪の道を走るんだ。

本日のおすすめに〆にしん(280円)を発見。
さらに〆さば(320円)、〆あじ(350円)まであった。
光りモノの酢〆が3種も揃っているのだ。
三本締めならぬ、三品〆に感動する自分がいた。
しかもこの値付けだから感動に追い打ちが掛かる。

にしんは上々だった。
真っ緑の粉わさがハーゲンダッツの抹茶アイスに
明治屋のメロンシロップを混ぜ込んだかの如くなれど、
文句の言えた義理ではない。
ビールのお替わりは中瓶にとどめた

背後のテーブルのオバさんが
豚肉生姜焼きをオーダーしている。
何やら付け合わせの生野菜は要らないらしい。
注文を受けた女将さんが厨房に叫ぶ。
「生姜焼きぃ~、肉だけでいいんだってサァ!」―
これを聞いた客一同がドッときた。
頼んだオバさん自身も
「肉だけって、なんかスッゴい頼み方だよネ」―
再び客たちの笑いを誘う。

昼のカレーのせいで腹は空かないが品書きをながめる。
かぼちゃ煮(140円)、聖護院かぶなます(150円)、
蛍いか醤油漬け(150円)、菜花からし和え(190円)。
激安メニューが並ぶ中、はまぐり汁(200円)を所望した。

光りく輝く貝殻が地物であることを物語る。
小ぶりながら6粒もあり、身肉の味も申し分ない。
お勘定は1680円也。
近所にあったらまことに危険な「やしろ食堂」でした

「やしろ食堂」
 東京都杉並区2-12-29
 03-3313-6010