2020年5月7日木曜日

第2388話 思い出すのは1971年 (その4)

港区・高輪は二本榎通り。
そろそろガス欠症状が出る頃だ。
消防署出張所の数軒先に喫茶店があった。
店頭に食事メニューが置かれ、かなりの品数。
ウィンドー越しにチラリ除くと酒瓶が並んでいる。

ここは純喫茶ではなく飲み食いが堪能できる店だ。
「キャロル」なる店名もイカすじゃないか―。
キャロルとなれば、J.C.的には
矢沢永吉ではなくてキャロル・キングでありまする。

迷うことなく入店した。
切盛りするのはもの静かな老店主独り。
あるのを承知でビールの有無を訊ねたら
スーパードライの生との応え。
いいでしょう、いいでしょう、いただきましょう。

でも、ビールだけじゃ気まずい感じ。
店頭の貼り紙に
”高輪名物 焼きカレー”とあったのを思い出し、
欲しくなくてもカレーくらい、
どうにでもなると軽い気持ちで通す。
セットのコーヒーは食後に―。

ビールはジョッキではなく、
ロンドンのパブでお馴染みのグラスで来た。
UKパイント(568cc)はなくとも
USパイント(473cc)近くありそうだ。
よく冷えて泡少な目でソー・ナイス。

10分ほど要し、高輪名物がスープを従えて運ばれた。
コンソメは和・洋の中間といった風で
あまりパッとしないが胡椒を振って息を吹き返す
その間、メインの焼きカレーは湯気を立てていた。
焼き色のついたチーズの下には
じゃが芋・にんじん・ほうれん草など野菜類、
カレーソース、バターライスが順に敷かれて
チーズの代わりがベシャメルだったらドリアだネ。

これが何ともヘビー。
喫茶店のレベルを度外視したボリュームで
こういうのに目のない女子はたまらんだろうが
J.C.には真逆の意味でたまらない。

それでも頑張った。
老いた店主を悲しませてはならじと奮闘した。
その甲斐あって時間は掛けたものの、
器にこびり付いた焼け焦げまで
きれいにこそげ落として完食に及ぶ。
われながらエラいや、ジッサイ。

=つづく=