2020年8月4日火曜日

第2451話 熱海ノスタルジー (その1)

国府津駅で熱海行きの列車に乗った。
小田原では降りずにそのまま車中の人。
真鶴の坂道を上り下りしようか―。
港付近は飲食店があまりないから
一憩すること能わずの懸念がある。

結局、終点の熱海まで行った。
何度も訪れ、様々な思い出が詰まっている熱海だ。
改札口の隣りに新しい商業ビルが建っていた。
ふむ、これが噂のルカス熱海か―。

こういう施設は好まぬけれど、
一訪の価値、無きにしも非ず。
土産物に興味はないからレストラン街を見て廻る。
けっこうな人出だ。

和食や中華が並ぶ3階に
「伊豆太郎」なる海鮮料理屋があり、
肝付き・まんぼうの刺身に強く惹かれた。
これで冷えたビールを飲みたいが
ウェイティング・リストに
十数名の名前が連なって、あきらめるほかない。

ちっぽけな屋上広場に上がってみると、
駅前ロータリーの向こうに
「五月みどりの店」が開業していた。
ふ~ん、五月みどりねェ・・・。
女性向けのアパレル&アクセサリーを
扱っているらしい。

昔、彼女の妹の、その名も「小松みどりの店」という、
ナイトクラブが赤坂にあって何度か利用した。
銀座のクラブとは異なる雰囲気が好印象だった。

せっかく熱海までやって来て
駅そばのアーケードを
一めぐりするだけでは意味がない。
帰りの上りがシンドいけれど、
坂道を下って寛一・お宮よろしく、
熱海の海岸を散歩してやろうじゃないの。

土産物屋の並ぶアーケードを抜けると
突き当りにまたもや「五月みどりの店」。
何だって熱海に五月みどりなんだ。
最近、さっぱり見ないと思っていたら
こんなところで一稼ぎ目論んでたんだねェ。 

坂道を歩き出すと突然、閃いて思わず膝ポン。
そうか、そうだったのか!
五月みどりの歌声が耳朶に鳴り始めた。

=つづく=