2020年8月6日木曜日

第2453話 二球空振りの辻堂 (その1)

何も飲まず食わずで2時間さまよった熱海。
上り電車は湘南新宿ライン直通の高崎行きだ。
伊豆や湘南から東京方面に戻るとき、
高崎行きだの宇都宮行きだのが来ると、
いまだに違和感を禁じ得ない。
さりとて利便性の恩恵を受ける乗客は数知れず。
まあ、いいや。

待合せの17時に先立つこと15分、辻堂駅に到着。
土地勘の薄い場所なので第一候補店の下見に―。
駅から数分の「辻堂ビヤホール」はすでに閉業していた。
期日不明ながら
「大船から20年、お世話になりました」との挨拶状。
わりと最近閉めたようでコロナ禍のせいかもしれない。

今宵の相方は家電製品のセールスウーマン。
一時期、ここ辻堂でも働いていたそうだ。
駅前で落ち合い、第二候補へ向かう。
難なく探し当てた焼き鳥店「さがわ」だが
当夜は予約でいっぱいとのこと。
入店制限をしており、客数は普段の半分に抑えた由。
あきらめるほかない。
予定の2店を空振るのは国府津に続いて本日二度目だ。

来る途中、通り掛かったパブだかバルだかの店頭で
「いらっしゃいませ~、どうぞ!」―
声掛けしてきた接客係に
好感を抱いた相方がその店を提案する。
当方はやはり見掛けた駅寄りの焼きとん屋の線だったが
ここはレディース・オピニオン・ファースト。

先刻のウエイトレスはやはりよい娘だった。
名前をS帆チャンという。
店名は「蒸氣屋」だが
厨房からはちっとも蒸気が上がっていない。

ビールの銘柄を訊ねるとプレミアムモルツの生。
「どこかでビールを飲んでからまた来るネ」
そう言い掛けて思いとどまり、
「ほかにはないの?」
「ちょっとお待ちください、確認してきます」
フットワークがなかなかよろしい。

すぐに戻った彼女、
「カールスバーグの小瓶が3本しかなくて早い者勝ちです」
「ハハハ、はい、3本いただき!」
まず2本抜いてもらい、めでたく乾杯と相成った。
やれやれ。

=つづく=