2020年8月20日木曜日

第2463話 鶯谷の坂の下 (その1)

高輪ゲートウェイが加わって全30駅となったJR山手線。
その中で最も乗降客数が少ないのが鶯谷だ。
しかし、此処は都内有数のラブホ激戦区につき、
人々は電車を乗り降りせず、ベッドを乗り降りしている。

二つある改札口は谷の底に北口、谷の上に南口。
ラブホ街に近いからか、北口のほうがにぎやかで
小さなロータリーを擁する南は寂しい。
それでもタクシー乗り場があるため、利用客が降りてくる。
行く先の大半は吉原だろう。
そう、鶯谷は吉原に一番近い山手線の駅なのだ。

ロータリーの一画、
かつて日本そば屋「童心舎」があった場所は
JR傘下のコンビニに変わってしまった。
新坂なる名称の坂を左にゆくと跨線橋。
なおも下れば、立ち食い焼きとんの「ささのや」。
陽が落ちる頃には串を焼く煙がモウモウと立ち込める。

その数軒先にとんかつ「とん平」が暖簾を掲げている。
戦後まもなくの開業というから七十有余年になるが
正確なことは現三代目にも判らないそうだ。

まだコロナ禍に見舞われる前の二月。
昼過ぎにロースカツライス(1400円)をいただいた。
そのときの印象。

三十代と思しき店主一人の切盛り。
ほどなく肉を揚げる音がピチピチとー。
脂身の少ないロースはやや熱の通し過ぎ。
ガシガシ感の残るコロモも気になる。
シャキシャキのキャベツよく、ちょっぴり添えられた、
玉ねぎ&きゅうりのマヨ和えがナイス・アクセント。
ライスと大根&きゅうりの浅漬けにも手抜かりナシ。
別売りの味噌椀はとん汁(300円)、
わかめ(200円)と割高感否めず。

L字形カウンターは6・3の9席。
L字の角は90度より広めで100度か―。
端っ子に今も使われているピンク電話があって
その脇に小さな手洗い用蛇口だが
手は洗えても電話機がジャマで顔は洗えず
ザッとそんな感じであった。

不完全燃焼だったため、
裏を返してヒレカツライスをと目論んだ。
再訪したのはコロナ禍渦中の四月。
案の定、自粛休業中で目論みは外れた。

そりゃ、事前に電話を入れりゃ済むことなれど、
実地検分しなけりゃ、把握できないこともある。
そうこうするうち、シツッコかった梅雨も明けた。

=つづく=