2021年5月26日水曜日

第2662話 谷崎生誕の地は今 (その1)

メトロ半蔵門線を水天宮駅で降りた昼過ぎ。

ここは日本橋蠣殻町。

駅上に祀られる水天宮は久留米水天宮の分社だ。

安産祈願にご利益のある神さまである。

 

妊娠中の相方を伴って参詣・・・と

言いたいところなれど、そんな相手もいないし、

今さら父親になる気など、

小池のタヌちゃんじゃないが、さらさらないっ。

 

新大橋通りをはさんで隣接する人形町に向かう。

今日の狙いは「シェ・アンドレ・ドゥ・サクレクール」。

パリ下町のビストロを謳う店だが

サクレクール寺院はモンマルトルの丘の上だぜ。

そこをパリ山の手とはいうまいが下町はどんなもんだかなァ。

 

さっそく店先のメニュー板をチェック。

あちゃ~! 本日の日替わりが

メカジキのトマト煮・ケッパー風味と来たもんだ。

それはないぜ、マドモアゼル!

 

何となれば、前夜の晩めしであった。

厨房に立って作ったのが

メカジキのバタ焼き・エストラゴンとケーパー風味。

魚種にとどまらずケーパーまで一緒じゃんかヨ。

 

ちなみにケーパーは英語、仏語ならカープル。

ケッパーはかつて日本人の仏料理人が間違えたまま、

広く人口に膾炙してしまった和声英語といえよう。

よって、J.C.はケーパーと表記することにしている。

もっとも若い頃はケッパーと呼んでたがネ。

 

今は昔、仏料理はグランドホテルの独壇場。

東京の街に真っ当な仏料理店は数えるほどしかなかった。

料理人の勘違いといえば

チコリとエンダイヴもいい例だ。

 

日本では欧米と正反対の表記がほとんど。

正しくは葉を閉じた小さな白菜みたいなのがエンダイヴ。

しわくちゃチリチリの葉を持つのがチコリ。

チリチリ・チコリと覚えてほしい。

 

その証拠に

ロンドン・ニューヨークでエンダイヴと呼ばれる野菜は

パリ・リヨンではアンディーウ、

ローマ・ミラノだとエンディヴィアだからネ。

 

なぜ日本で入れ違いが生じたのだろう。

思うにエンダイヴの別称がベルギー・チコリであるため。

往時のコックさんたちはいつの日からか

ベルギーを省いてチコリと呼び始めたハズ。

せめてベルチコとでも略せばよかったのになァ。

何事も省き過ぎると、禍の元になるんだネ。

 

=つづく=