2022年11月11日金曜日

第3144話 アクリル板の向こうとこっち (その2)

エンコのマイ・ブレイクルーム、
「神谷バー」の1階で独り飲み。
でもネ、独りでいる気がしないのは
アクリル板を隔てて見知らぬ他人が
同じものを飲み、同じものを食べているからだ。

オーダーした串かつが目の前に置かれた。
何度食べたかなァ? ここの串かつ。
大ぶり2本と繊切りキャベツ。
1本に5ピースが串打たれており、
肉・肉・玉ねぎ・肉・肉という並び。
一時期、玉ねぎの値段が高騰したせいでもあるまいが
1ピースだけで豚バラ肉が中心だ。
小袋の中濃ソースとマスタードで食べる。

ややっ! はす向かいのオジさんに
今度は串かつが来たぜ。
いったい全体どうなってるんだ。
互いの違いといえば、
あちらが30°のデンキブラン。
こちらは40°の電氣ブラン<オールド>に加えて
ハチブドー酒というだけ。

どんな面構えか確かめたいけど
視線がからむと気まずい思いをするから顔を見ずに
卓上の酒と料理だけをながめていた。
まっ、この程度は単なる偶然と思える自分がいる。

豚肉と馬肉を食う、一見トンマなオッサン二人。
でもそれなりに楽しい昼飲みではあった。
長居はせずに片割れを残し、エンコの街をフラフラ。
街にはインバウンドとともに活気がだいぶ戻った。
おっと、また島倉千代チャンの歌声が・・・

♪   お参りしましょよ 観音様です 
  おっ母さん
  こゝが こゝが 浅草よ
  お祭りみたいに 賑やかね ♪
   (作詞:野村俊夫)

フラフラを続けても入りたい店は見当たらない。
何だか自嘲気味になって来やがった。

うふふふふ、
J.C.オカザワも今じゃエンコの風来坊、
人生裏街道の枯落葉かァ。
おっと、今度は三波春夫が歌い出す。

♪   義理の 義理の夜風に さらされて
  月よお前も 泣きたかろ
  こゝろ乱れて
  抜いたすすきを 奥歯で噛んだ
  男 男泪の 落とし差し   ♪
   (作詞・猪又良)

もうやってられんわ、そろそろ帰ろ。

「神谷バー」
 東京都台東区浅草1-1-1
 03-3841-5400