2023年6月23日金曜日

第3303話 上海帰りのラン (その3)

北区・王子の飛鳥山。
1720年に八代将軍・吉宗が桜の苗木を植えさせ、
17年後、江戸庶民に開放された。
以来、300年に渡って桜の名所であり続けている。

飛鳥山のたもとの「豫園飯店」。
見知らぬ男と二人、
大きな円卓に向かい合っている

すると、お運びのランちゃんが
彼の隣りに座り込むじゃないかー。
親しげに話し始めた。
エッ? どういうこと。

上海みやげと思しき品々を手渡している。
親戚かな? いや、若いツバメかも知れんぜ。
想いをめぐらせていたら
彼女こちらに向き直って開口一番。
「息子です!」
「エッ? アッ、息子さん?」
早く言ってヨ、気を揉んだじゃないかー。

接客に戻った彼女のあとに残された二人。
言葉を交わし始める。
「住まいはどちら?」
「中板橋判りますか?」
「エエ~ッ! 小学校に上がる前、
 東京へ出て来て初めて棲んだ町」
「エエ~ッ! そうだったんですか」

いや、驚いたな、ところが驚きは続く。
「職場は?」
「御徒町です、貴金属関係なんで」
「エエ~ッ! 週に一度は飲んでる町」
「そうなんスか」

「結婚はしてるの?」
「ええ、会社で知り合って」
「オフィス・ラブだネ」
「社内恋愛です」
日本語はきわめて堪能だ。

訊けばカミさんは台北生まれの台湾人。
可愛くて性格も好いそうだ。
まっ、御徒町という町には
才色兼備の素敵な日本女性は
少ないかもしれないな。

二人の会話は北京語一本で
日本語は全く話さない由。
上海男と台北女、
掛け合わせは悪くなさそうだ。

子宝に恵まれる日も遠くはあるまい。
するってえと、香蘭は婆ちゃんかー。
それもまたよし。

=おしまい=

「豫園飯店」
 東京都北区滝野川2-7-15
 03-5394-9951