2011年8月17日水曜日

第120話 昔の名前で食べてます (その2)

昔よく通った「直久本店」の味を求めて
「直久 新橋店」にやって来た。
生ビールに付いてきた餃子を食べてビックリ。
期待のかけらもなかったのにこれが旨いのなんのっ!
近年まれにみる傑作であった。

ふ~ん、こんなこともあるのだねェ。
餡における肉と野菜のバランスよく、
包んだ皮のモチモチ感が何ともいえない。
一人3ヶじゃもの足りなくて追加を焼いてもらった。

中ジョッキをガンガン飲ったのでそのアテに
ねぎチャーシュー・にら玉・きゅうり漬けを選んだものの、
この連中には感心しなかった。
もともと本店にこんなものはなかったし・・・。
新橋という土地柄から
一杯やるオッサンを呼び込むために用意したのだろう。
周囲を見渡すとなるほど独り飲みの客がいっぱい。

目当てのラーメンは手打ちの太麺でお願いする。
何となれば、こちらが本来の姿で
細麺はこれまた昔の本店にはなかった。
「直久」本来のオードソックスな醤油ラーメンに
ゴキゲンの夜である。

新橋から有楽町へ歩いたのは
ガード下の「八起」で飲み直す腹積もり。
店に抜けるトンネルをくぐる直前、
ふと「いわさき」の様子を探りたくなった。
1年ほど前、電話したときに店主から
「もう夜はやってないんですヨ」と言われたが
佇まいだけでも拝んでおけば気が済む。

すると、ひょっこり暖簾が出ているではないか。
うっすら灯りも点っているではないか。
おそるおそる引き戸を引いて入店。
「まだいいですか?」
「ええ、いいですよ」
思いも掛けない幸運とはこういうことをいう。

ビールを1本頼んでおいて名物の”わかれ”。
あとは鯖塩焼きが売切れなので秋刀魚の開きをお願い。
最近は”わかれ”よりもカツ丼の注文が多い。
というより、”わかれ”の存在を知る客が激減したのだ。
そんな事情もあり、女将さんは
”わかれ”を所望する声が上がるたびに目をキラリと光らせる。
一方のオヤジさんも注文を聞くと、
カウンター越しにチラリと客の顔を確かめる。
嘘だと思ったら読者も一度食べに行ってごらんなさい。
”わかれ”の一言で愛想がグッとよくなるから。

まっ、わかれ話はこのくらいにしましょ。
サラリーマンに成り立ての頃の味が忘れられなくて
故きを温ね続けているJ.C.である。
そうなんですヨ、この歳になってなお、
昔の名前で食べてます。

「直久」
 東京都港区新橋2 ウィング新橋B1
 03-3574-7279

「いわさき」
 東京都千代田区有楽町1-6-9
 03-3591-4740