2011年8月19日金曜日

第122話 天然氷のかき氷

谷中の夕焼けだんだんはその名の通りに夕陽の名所。
石段に固有の名前が付いているのは都内でも珍しい。
J.C.の知る限りでは
五反田の「助川ダンス教室」の脇にある裕次郎階段くらいだ。
もっともこちらは文筆家の冨田均氏が名付け親、
彼の著書「東京映画名所図鑑」を読んでいない人は初耳だろう。
映画「嵐を呼ぶ男」ではホンの数段の階段上に
裕次郎と母と弟の一家が住む安アパートがあった。

夕焼けだんだんの最寄り駅は
JRもしくは京成線の日暮里と
東京メトロ・千駄木がほぼ同じ距離だ。
日暮里から行くと階段の上、千駄木からだと下に出る。
どちらがよいかは当然のことに日暮里。
夕陽に向かって歩いてゆくのと
夕陽に背を向け、階段を昇りきって振り返るのとでは
気分の爽快さにいささかの差が出ようというものだ。

階段を降りきり、一つ目の角を左折してほどなく
「ひみつ堂」なる甘味処がある。
いや、甘味処と呼ぶのは当たっていない。
何となれば、あんみつもアイスクリームも和菓子類も
まったく扱っていないからだ。

ここは都内でも唯一の(知る限りでは)かき氷専門店。
「ひみつ堂」の”ひみつ”は”秘密”ではなく”氷蜜”、
なかなかにしゃれのめした店名ではある。
何でも栃木県・日光の天然氷を使用しているらしい。
シベリアやアラスカでもあるまいし、
そんなところにあるのかな、天然氷?

8月に入ってから気温はうなぎ上り。
夏休みということもあってか
通るたびに長い行列を見るようになった。
商売繁盛はご同慶のいたりだが
気になるのは夏はともかく、冬はどうすんの?
このことである。

子どもの頃、どこの町内にも1軒はあった氷屋は
常に炭屋を兼業していて
冬場になると木炭・練炭・豆炭・炭団(たどん)が
主力商品となったものだった。
言わば氷と炭の二毛作。
もっともこういった氷屋がかき氷を出すことはないがネ。

谷根千在住の友人と
昼過ぎの一番暑い時間帯に訪問。
”氷蜜”を高らかに謳い上げるだけあって
氷にかけるシロップも本物を使う。
オーソドックスに氷いちごで攻めてみた。

苺特有のツブツブがご覧いただけようか?

う~ん、やっぱり真っ赤な色付きシロップとは別物ですな。

相方はゴージャスに宇治金時。

抹茶のシロップがこれでもかと

注文の際、店主にかなり苦いヨと注意を促された通り、
相当に苦みばしった本格派であった。
こりゃ子どもにはちょいとムリかも・・・。

店主夫婦と小学生の息子、
家族3人のほのぼの経営である。
「アリとキリギリス」のキリギリスではないが
冬を迎えて一家が路頭に迷わぬよう、
心から祈るばかりである。

「ひみつ堂」
 東京都台東区谷中3-11-18
 03-3824-4132