2011年8月31日水曜日

第130話 初めて食べた もつ釜めし

昨日、書き忘れたことがあった。
「キッチン南海本店」のボリュームばかりを強調したが
肝心の味はけっして悪いものではなかった。
生姜焼きもイカフライも水準に達している。
ただし、付合わせの面妖なスパゲッティは
手をつけなかったので保証の限りではない。

本日は江戸川乱歩の推理小説、
「D坂の殺人事件」の舞台となった千駄木・団子坂に出没する。
千駄木といえば、オバタリアン(死語か?)の散歩の聖地、
かの有名な谷根千の一翼を担う土地柄である。

不忍通り沿いの東京メトロ千代田線・千駄木駅が町の中心。
この地は隣り町の根津同様に谷間になっている。
その谷底から東西に登り坂が伸びており、
西側が団子坂、東側は三崎(さんさき)坂。
三崎坂には「乱歩」の名を冠した風変わりな喫茶店がある。

江戸川乱歩はプロの作家になる前、
実の兄弟3人で「三人書房」なる古本屋を経営していた。
一時は支那そば屋も営んだというから本人自身、
怪人二十面相とまではいかなくとも
様々な面相を持っていたことになる。

団子坂のふもとに「一富士」という新店を見つけたのは
大型連休の最中だったと思う、いや、直後かな。
とにかく店頭に提示されたランチメニューに惹かれた。
もつ釜めしと牛テールカレーがユニーク極まりない。
殊にもつ釜めしは前代未聞だ。

後日、持ち駒の中では数少ないアカデミックな友人、
仮にXクンとしておこうか、科学者の卵なのだが、
昼めしを奢ってやるから出て来いと呼び出した。
科学者や研究者は朝から晩まで顕微鏡をのぞいていて
ロクなモン食っちゃいないだろうから
味オンチばかりだと思っていたら
どうしてどうして、なかなかに敏感な舌の持ち主である。
でもって、いただきやした。

牛テールより野菜の目立つカレー

様々な牛もつが混在している

カレーを一口やって「・・・・・。」
何だか旨みもコク味もどこかへ置き忘れてきちゃった感じ。
科学者Xクンもまったくの同意見。
カウンター8席ほどの小体な店で目の前には経営者の若夫婦。
大きな声は出せないから、ひたすら首を傾げるわれわれであった。

むしろこちらがメインのもつ釜めしのデキやいかに?
心配をよそにこちらは水準に達していて胸をなでおろす。
使用されているのはミノ、ハチノス、ギアラ、シマチョウの4種類だ。
まっ、珍しいといえば珍しいのだが牡蠣や松茸と比較して
もつ釜めしが一頭抜きん出ているということはない。

牛テールときゅうりを和えた小鉢、丁寧に作られた小サラダ、
臭みのないテールスープなど、脇役陣が光彩を放っている。
仕上げには杏仁豆腐と煎茶まで登場した。
夜は夜で牛もつ主体のコース料理がほどほどの予算で食べられる。
そこで夜の再訪は?
そう問われると、はなはだ躊躇せざるをえない自分がいるのです。

「一富士」
 東京都文京区千駄木3-34-10
 03-5832-9633