2011年8月29日月曜日

第128話 南海に沈没す!(その1)

御茶ノ水の雀荘で麻雀を打つ前に
必ず軽く晩酌することは先週すでに書いた。
実は今日もそのからみの失敗談である。

都内各地に何軒か点在する「キッチン南海」。
どれもが暖簾分けによる独立採算制であるらしい。
神保町・蔵前・両国店の前は何度も通り過ぎているが
今までずっと未踏のままだった。
理由は噂に聞いたそのボリュームのすさまじさ。
大食漢の若者でないと完食はまずムリだという。
大食に無縁の者が怖気づくのも当然であろう。

にもかかわらずある日、打牌の前にふと思った。
ライスを回避して料理をつまみにビールを飲むだけなら
大事に至ることはあるまいと・・・。
そのアイデアに勇気づけられ、
神保町の本店に出掛けて行ったのである。

時刻は17時ちょっと過ぎ、開戦には1時間ほどの余裕がある。
昼でも夜でも食事どきとなると、
店先に数名の行列を見ることしばしばだったが
幸いにも並んでいる客がいない。
この時間なら飲む客、食う客が半々だろうと勝手な推測をした。

ここで気になるのはビールの銘柄だ。
得意な2社のものならよいが、苦手の2社ならどうしよう・・・。
このことであった。
よって入店の直前に店内の盗み見を試みる。
このときの心境は小学唱歌「めだかの学校」さながら。

♪   そお~っと のぞいて見てごらん
   そお~っと のぞいて見てごらん
   みんなで おビール飲んでるよ ♪

ところがが見たところ、誰もビールなんざ飲んじゃいない。
っていうかァ、ビール瓶の姿がまったくない。
今度は店の入口周りに目を配る。
ビール瓶を収めるラックの有無を確かめるために―。
しかし、これまた見当たらなかった。
ことここに及び、心に暗雲が立ち込めた。
ひょっとすると、この店はビールを出さないのではないか。
疑念にとらわれてよくよく目をこらすと、
カウンターにはお冷やのピッチャーだけがズラリと並んでいた。

ダメだこりゃ!
いよいよ覚悟を決めるときがきた。
もう、なるようになれ、
メシだけ食ってビールは雀荘で飲めばそれでいいじゃんか!

観念してガラスのドアを引いた。
「いらっしゃあ~い!」の声を聞き、
カウンターの1席に身を沈めたら
おもむろに隣り近所と背後のテーブル席をチェックする。
案の定、だあれもビールなんぞ飲んじゃあいない。
あいや、ビールどころか、ジュースやサイダーの姿すらない。
揃いも揃ってお冷やのみ。
かくしてはかない望みは完全に断ち切られた。

=つづく=