2015年2月9日月曜日

第1030話 小雨にけむる土曜の夜 (その1)

小雨にけむる土曜の夕刻だった。
上野松坂屋で買い物を済ませ、
新橋から銀座・日本橋・神田を経由して
上野へと続く中央通り沿いに出た。

晩めしどきだが空腹感とてなく、
ビールが飲めればそれでよいという心境。
手っ取り早く上野・湯島・御徒町界隈で晩酌とするか・・・。

そんなふうに思いながら通りの向こうを見やると、
早稲田行きのバスが停まっている。
このバスは次第に左へカーブしてゆく不忍通りをずっと進み、
護国寺前で左折したら江戸川橋を経て
終点・早稲田のリーガロイヤルホテル前に到着する。
途中、根津・千駄木・道灌山下・動坂下・上富士前・千石など、
それなりのプチ繁華街を走り抜けてゆくのだ。

深く考えもせず、ほぼ衝動的にバスの乗客となった。
始発につき、車内は空席だらけだ。
JRやメトロでは座らない主義だがバスはベツ、
吊り革につかまらないと立ってられないからネ。
ちなみに電車の吊り革にはまず手を触れない。
インフルエンザなど、ウイルスの巣窟のような気がするのだ。

一番後部、長いシートの隅に陣取って
しずくに濡れた窓外をながめつつ、思案する。
さて、どこで降りるとするかの?
この前夜、たまたま千石の角打ち「十一屋能村酒店」で飲んだ。
大塚で催された飲み会の前、たった独りの零次会だった。
時間に追われたこともあり、
ビールのレギュラー缶とグラスのカベルネ・ソーヴィニョンを1杯、
それで切り上げたのだった。

ここしばらく「十一屋」の営業時間はまっこと不規則。
開店時刻が16時だったり、17時だったり、はたまた19時だったり。
前日の店主のハナシでは翌土曜(今話当日のこと)は
17時オープンだったハズ。
タイミングがバッチリだったので前夜に続く再訪を決断した。

千石二丁目で下車し、歩を進める。
おや? 赤ちょうちんに灯りが点っておらんゾ。
あゝ、無情にもシャッターは降りたままで、
どうやら臨時休業の様子じゃないか。
そぼ降る雨の中をやって来たのに何てこったい!
いや、マイッたな、やっちまったぞい!

足取りも重く不忍通りに戻ると
帰りのバス、上野松坂屋行きが発車寸前。
運チャンに手を挙げてドアを開けてもらった。
今来た道を引き返しながら再考に及ぶ。
第一感は動坂下の「ときわ食堂」か「動坂食堂」。
第二は団子坂下の「居酒屋兆治」か「にしきや」かな?

=つづく=