2015年2月26日木曜日

第1043話 天丼はどんぶりの王者 (その1)

文京区・本駒込在住のK子老人からまたもやお呼びが掛かった。
先日、当ブログにデビューをはたされた将棋好きのご老公である。
この誘いは無下には断れぬ。
ご老公に対して礼を失すれば、
助さん・格さんにどんなお仕置きをされるか知れたものではない。
でもって日取りを調整し、出張って行った。

お茶もビールもお酒も飲まず、5局ほど指しておいとました。
時刻は17時半、さて、どこへ行ったらよかんべサ?
徒歩圏内は千石・白山・駒込・千駄木あたり。
メトロなら南北線か三田線利用で王子・赤羽・飯田橋・市ケ谷、
はたまた、巣鴨・板橋・神保町と行動範囲はぐ~んと拡がる。
加えてバスなる手もあり、それなら池袋・三河島・三ノ輪・浅草になろうか。

結局は薬局、歩いて2分の白山上に赴く。
入店したのは東京最古の天丼チェーン「てんや」であった。
なぜだろう? なぜかしら?  
実は数週間、いや、数ヶ月ほど前から
「てんや」店頭のポスターに心惹かれておったのサ。

何に惹かれたんだ! ってか?
それはですネ、活け〆穴子と子持ち白魚を組み込んだ、
早春天丼(830円)なる季節限定メニューでござんす。
穴子はもともと好物だし、白魚もあったら必注の種、看過は絶対にしない。

ためらうことなく、早春天丼をお願い。
しっかし、このネーミング、
J.C.は第一感で今は亡き映画監督、小津安二郎に食べさせたいと思った。
小津は天丼が大好きだったのだ。

ここで自著「文豪の味を食べる」から
文芸評論家・小林秀雄の稿を紹介してみたい。
小津と小林は奇しくも鎌倉の同じ天ぷら屋をひいきにしていた。
実はこの稿、浅草の「弁天山美家古寿司」から始まるが
長くなるので前半は割愛、「天ぷら ひろみ」から始める。

10月の三連休の中日、久しぶりに鎌倉を歩む。
若宮大路の西側を平行して走る小町通りは行楽客であふれ返り、
店々を冷やかすどころか、通行すら思いのままにならない。
自分もその行楽客の一人、文句の言えた筋合いではないけれど―。
それでも興の冷めることはなはだしい。
夏の江ノ島は芋を洗うが如くだが
秋の鎌倉もまた豆を炒るが如しであった。

小町通り界隈には鎌倉文士が愛着した料理店が点在しており、
小林秀雄が通った「天ぷら ひろみ」もその1軒。
雑居ビルの2階というロケーションにいささか鼻白むものの、
案外こういうところが当たりだったりするものだ。

と、ここまでで、以下次話です。

=つづく=