2015年2月10日火曜日

第1031話 小雨にけむる土曜の夜 (その2)

千石の角打ち「十一屋能村酒店」に赴いたものの、
突然の休業に心打ち砕かれ(そうでもないけど)、
同じ不忍通りを逆走している。

バスはアッという間に駒込五丁目を過ぎて動坂下へ。
降客たちのあとを追うようにして反射的に飛び降りた。
ここから「ときわ食堂」へは少々歩く。
「動坂食堂」ならバス停の目の前だ。
雨も降ってることだし、こりゃ近いほうをを選択するわな。

ビールの大瓶が650円と、
この手の食堂としては高めの設定だが
料理の質はそこそこのレベルに達しており、
その証しとして、いつも立て混んでいる。

大瓶としらすおろし(250円)を所望した。
なめこおろしを注文することはまずないけれど、
しらすおろしはひんぱんに頼んでいる。
30代後半あたりから次第に釜揚げしらすが好きになり、
今となっては大好物の仲間入りである。

もう何年も口にしていないが
神奈川県・藤沢市は浜野水産のそれなんざ、まさに天下一品。
酒の肴によし、飯の友にまたよし、なのである。
暖かい季節になったら遠出して買ってこよう。
うん、そうしよう。

しらすおろしの小鉢半分で大瓶を飲み干した。
ここでふと思った。
けっこうな量の大根おろしが残っているから、
何か天ぷらでもいっとくか―。

天ぷらは生醤油とおろしでいただくのが好み。
あとは塩が好きだから、ほとんど天つゆを使うことがない。
天つゆを使うのは穴子くらいじゃなかろうか。

壁の品書きには天ぷら盛合わせ(1100円)と
穴子天ぷら(750円)が並んでいた。
ここは当たり前のように穴子クンであろうヨ。
穴子というヤツは鮨屋にも天ぷら屋にも
必要不可欠な優秀魚と言い切ってよい。

日刊スポーツをめくりながら、揚がりを待つこと10分。
現われた穴天に飛び上がったぜい。
いや、実際に腰を浮かせたわけじゃないけど、
心は確実にジャンプした、高梨沙羅チャンの如くに―。

青唐2本を従えた穴子の群れは実に5ピース。
その1切れづつがかなりの存在感を放っている。
こんなには食べられんヨ、一瞬、半分はお持ち帰りと観念したほどだ。
過ぎたるは及ばざるが如し。
こんなふうに出されると食欲はめげる、メゲる。
芥川龍之介じゃないが、食欲が滅却してしまうのだ。

=つづく=