2015年2月27日金曜日

第1044話 天丼はどんぶりの王者 (その2)

今話、最初に紹介するのは昨日の当ブログを読まれた、
群馬県・前橋市在住のK崎サンからいただいたメール。

「早春天丼のネーミングから
 どうして小津安二郎を連想したのですか?」
という疑念である。

これは筆足らずで失礼しました。
小津作品に「早春」はないけれど、「晩春」がある。
加えて「お早よう」もあって
この二つが頭の中で合体しちゃったんでしょうネ。
それに彼は無類の天丼好きだから
瞬時にして食べさせたいと思ったわけなのでした。

さて、「文豪の味を食べる」より、
小林秀雄の稿は鎌倉小町通りの「天ぷらひろみ」、
そのつづきである。

11時半の開店時間を過ぎること約15分、先客は2組だけだった。
清潔な店内はさほど広くない。
立て込まなければ清楚な雰囲気すら漂う。
テーブル席のほかに個室が1つ、カウンターは8席。
昼は主として天丼と定食の注文をもっぱらテーブル席でさばいている。
1万円からの”おまかせ一通り”を予約した客だけが
カウンターに案内されるシステムだった。

文芸評論家・小林秀雄のほかに
映画監督・小津安二郎もこの店に胸襟を開いた一人。
両雄にちなんだ小林丼小津丼が今でも店の名物となっている。
どちらも3675円と天丼にしては結構なお値段だが
内容の充実ぶりからして満足度は高い。

小林のコラムにつき、客人扱いの小津丼から紹介すると
活け車海老2尾・旬の白身魚・小かき揚げ・季節の野菜、
といった豪華なキャスティング。
これをこの店では”おすすめの天丼”と称している。

小津はこの天丼の海老や白身や野菜を酒の肴に
手に持てないほどの熱い徳利を10本もカラにしたという。
まさか正1合ではあるまいが、それにしても相当な酒量ではないか。
存分に酒を飲んでから赤だしで残りのごはんを食べたそうだ。

今回の訪れは小林秀雄の食跡をたどるのが目的、
よって小津丼は試していない。
お目当ての小林丼は”こだわりの天丼”と明記されていた。
穴子・白身魚・小かき揚げの陣容で、小津版よりもシンプルな印象を受ける。

注文の際、お運びの女性に白身の魚種を聞きそびれたが
いずれにせよ今回の必食科目だから見てからのお楽しみということで・・・。
天ぷら屋では天丼だけでなく、天ぷらごはんも食べたくなるのが人情。
相方にはもっとも廉価な定食のつゆくさ(2100円)をオーダーしてもらった。

と、ここまでで、再び以下次話であります。

=つづく=