2017年12月6日水曜日

第1759話 肩透かし三連発 (その2)

目黒区・祐天寺は「鮨 たなべ」の思い出。
煮つめを一刷毛した子持ちヤリイカをつまみに飲んでいた。
燗酒を口元に運びながら
目の前のヤリイカを子どもだと言う親方の説明に
一応、納得はしたものの、
しばらくして、いや、ちょいと待てヨ。
酒盃を置いて再び投げかけた。

「だけど、腹に子を持ってるってことは
 このチビも親なんじゃないの?」
「ん? んん? アッ、そうか!
 そうだねェ、親なんだねェ」
二人で笑い合ったものだった。

15年近くの時を超えて「鮨たなべ」の店先に立つ。
時間がまだ早いせいか客はいない。
つけ場に親方が座っている。
いかにも手持無沙汰といったふうである。

顔が奥を向いているから見覚えがあるとは言えない。
よしんばこちらを向いていても15年前に一度見たきり、
思い出せるものではあるまい。
帰りにちょいと寄ろうかな?
瞬間そう思ったものの、和歌山の熟れ寿司のあとで
江戸前鮨でもなかろうて―。

それよりも隣りの焼き鳥屋に心づいた。
店先の品書きに”背肝”の二文字を発見したのだ。
数ある焼き鳥の部位のうち、もっとも好きな背肝である。
もうこれだけで2軒目はキマリの巻であった。

さらに歩くこと数分。
「かっぱ」は区役所通りに面していた。
敷居をまたぐと、
カウンターのみ8席ほどの小料理屋といった感じの店内。
奥のほうは常連が占めており、
入口に一番近い端っこの席に着座する。

切盛りするのは女将とその娘さんである。
ビールはキリンラガー、サッポロ黒ラベル、
アサヒスーパードライの大瓶が揃い踏み。
飲み屋の正しい姿がそこにあった。

予約というほどではないが
数日前に確認の電話は入れておいたので
「ああ、お電話の方ですネ?」―
物腰の柔らかい女将が笑顔を見せてくれる。

ビールを飲みながら、
何か1品つまんで
すぐに日本酒と熟れ寿司をいただこう、
そんな心づもりでおりました。

=つづく=

「鮨 たなべ」
 東京都目黒区中町2-44-15
 03-3792-5855