2017年12月26日火曜日

第1773話 祝・55周年の洋食屋 (その1)

東武東上線・ときわ台。
沿線きっての高級住宅街が背後に拡がるため、
板橋の田園調布とも呼ばれている。
わが母校、上板橋一中の最寄り駅はここである。
今も昔もいたって庶民的な中学校だがネ。

入店したのは「キッチンときわ」。
下町を中心に散在する「ときわ食堂」とは
ゆかりがないものと思われる。
当店はこの11月に創業55周年を迎えたばかり。
ご同慶のいたりなり。

先客は1組の老夫婦のみ。
常連さんなのだろう、
傍らにシェフが立ってハナシに花が咲いている。
フロアの接客はママさんまかせ。
姿は見えないが厨房に息子さんがいるようだ。

聞くともなしに聞こえてくる会話から
店主は齢90歳を迎えたとのこと。
脚が弱って歩行がままならず、
殊に革靴は重たくてムリだという。
体力も衰え、握力が20以下で
調理に支障を来たしているという。

ビールを運んできたママがお酌までしてくれた。
先刻の日本酒の酔いも醒めて
冷たいビールが極上ののど越し。
たまりませんなァ。
サービスのお通しは可愛い甘らっきょが2粒。
意表を衝かれたが、これはこれでいい。

オーダーしたのはこの日の朝から決めていたカキフライ。
「住友」では魚介の天ぷら、
「ときわ」ではカキフライと連荘の揚げ物である。
唐揚げとトンカツは厳しくともシーフード同士ならOKだ。

らっきょをポリポリ、ビールをグビグビやっていると、
老夫婦の注文品が整い始めた。
「ほら、アナタが話しかけるから〇〇サン、
 煙草吸えないじゃないの」
ママに諭されてシェフはキッチンに消えた。
〇〇サンは目の前の餃子に箸をつけることもなく、
店外の喫煙スポットへ。

ふ~ん、常連は餃子かいな?
それも2皿の二人前である。
一服し終えた〇〇サンが戻ったときには
肉野菜炒めが到着。
彼らの席がJ.C.の斜め右前につき、
状況は手に取るように判る。
なっ、なんだ! 今度は酢豚がやって来た!

=つづく=