2017年12月18日月曜日

第1767話 牡蠣と鰯と鹿肉と (その4)

大田区・大森の「イタリアニタ」の止まり木に
二羽の雀が止まっている。
主菜の鹿肉ステーキを待っていた。
鹿肉・・・、肉食禁止令をかいくぐる隠語は紅葉もみじ)。
英語ではヴェニスン、仏語ならシェヴルイユ、
当店はオステリアにつき、チェルヴォである。

到着した皿には適度な脂身を備えたステーキが1枚。
付合わせの鮮やかな黄色は安納芋のマッシュだ。
はは~ん、これはポレンタに見立てたな・・・。
ピンときて接客のオニイさんに訊ねると
「おっしゃる通りです」―
予想通りの応えが返ってきた。

安納芋が種子島特産の甘みの強いさつま芋なら
ポレンタは北イタリアで好まれるコーンミール、
いわゆるとうもろこし粉である。
ふ~む、代用品としてはグッド・アイデアじゃないか。

安納芋もさることながら
肝心のチェルヴォが相当の美味。
めったに出会えぬ鹿の脂身が
その効力をじゅうぶんに発揮している。

ワインを店主オススメのフラッパートに切り替えた。
シチリア島で修業を積んだ彼は
どうしてもシチリアのワインを飲んでほしいとみえる。
「だからさァ、ネロ・ダーヴォラは不得手なのっ!」―
再びその旨伝えると
「いえ、いえ、これはネッビオーロに近い品種なんですヨ」―
ゆずる気配はまったくない。
そこまで言うならと試してみたら
ホントに軽いキレ味が小気味よかった。

パンをお替わりしたせいか、
お腹がふくれてしまい、締めのパスタはパス。
8千円ほどの支払いを済ませて夜の町に出る。
行く先はまたもや山王小路飲食店街、
人呼んで地獄谷である。

このエリア最古のスナックといわれる「T」の扉を開けると、
70代だろうか? 
和服を小粋に着こなしたママがニッコリお出迎え。
ビールを飲みながらしばし昔話を伺う。
頃合いを見計らい、彼女に歌をリクエストすると、
島倉千代子の「鳳仙花」、美空ひばりの「悲しき口笛」、
2曲披露してくれた。

最後にママと「夕陽の丘」(石原裕次郎&浅丘ルリ子)を
デュエットして店を出たのが23時半。
大森に来たら必ず立ち寄る地獄谷になってしまった。
それにしても相方のスナック好きには困ったものよのう。

=おしまい=

「イタリアニタ」
 東京都大田区大森北1-7-1
 03-3762-3239