2017年12月7日木曜日

第1760話 肩透かし三連発 (その3)

目黒区は祐天寺と学芸大学のあいだにある「かっぱ」。
名物は紀州名物の熟れ寿司である。
さば・ます・あじ・たい・えび、5種類もあるそうな。
いや、楽しみ、愉しみ。

その前に何か手軽なモノをと品書きに目を凝らす。
まだ何も食べていないのに早くも大瓶が残り少ない。
そのとき、目の前にやって来た、って言うかァ、
女将はほとんど入口近くを担当しており、
奥の常連客は娘が相手をしている。

その女将が口を開いた。
「熟れ寿司がお目当てではないでしょう?」
「いえ、お目当てですヨ」
「アラ、ごめんなさい、今日は全部売切れてしまって―」
ガァ~ン!
まだ宵の口でっせ!

この衝撃は大きかった。
いや、デカかった。
いや、いや、バカデカかった。
ソレはないぜ、セニョーラ!
怪我はしないが、まるでビール瓶で殴られたみたい。
そう言やあ、あの事件。
いや、ソレはまた機会をあらためて語ることにしよう。
当事者の証言が終わってからネ。

何と、5種ある熟れ寿司、全滅の巻。
強烈な肩透かしに一敗地にまみれた思い。
訊けば前夜の客がまとめてお持ち帰りした由。
どこのどいつか知らねェが
少しは他人の迷惑ってもんを考えろヨ。
今度会ったらタダじゃおかねェからな。
シャンパン・ボトルにぎっちゃうかんな。
それが滑ったらリモコンだってあんだかんな。
あゝ、書いてて疲れるわ。

ガックシ肩を落として品書きを再見。
店には失礼ながら月並みなモノばかりで
惹かれるモノが見当たらない。
ここで席を立つほど子どもじゃないし、
とにかく何かしのぎの1品を見つけなければ―。

おっと、あった、あった、紀州名物が一つだけ。
地獄に仏のひらがな三文字、その名を”ほねく”という。
太刀魚を骨ごとすり身にして油で揚げたヤツ。
いわゆる上品なさつま揚げでんな。

相撲を取り直した、もとい、気を取り直したJ.C.、
声高らかに
「ほねくを下さい!」

=つづく=