2017年12月12日火曜日

第1763話 肩透かし三連発 (その6)

よしこサンが手がけた54年モノぬか床による、
新香盛合せが目の前にある。
にんじん、大根のほかに主役級がもう1種。
好物につき、これが何かはすぐにひらめいた。

そのとき他の客から声がかかった。
同じ新香を注文したものとみえる。
「女将サン、この胡瓜みたいの何だい?」
「あっ、それは隼人瓜っていうのヨ」
思った通りであった。

中南米原産の瓜は鹿児島に伝来し、
薩摩隼人の国柄から隼人瓜と命名されたという。
今からちょうど一世紀前、1917年のことで
当年の世界の一大ニュースはロシア革命であろう。

隼人瓜は歯ざわりよく、みずみずしい。
市場にはあまり出回らないが
最近では笹塚と田端の青果店で見かけた。
もちろん見かければ買い求めるJ.C.である。

大盛りの新香を完食するのは荷が重かったが
そこは54年モノ、五十五万石との相性よろしく、
肩透かしの悪夢をいったん拭ってくれたのだった。
三千円弱の会計後、来た道を戻る。
焼き鳥の「立花」で背肝をいただくためだ。

入店前に隣りの「鮨たなべ」をチラリのぞくと、
未だにノー・カスタマーで親方は引き続き手持無沙汰。
これからの来訪客あらんことを祈る。

「立花」の店内は堀ごたつのカウンター、
それに板の間にテーブルという設え。
客は靴を脱がなければならない。
カウンターの端っこ、入口に一番近い席に促され、
先ほどの「かっぱ」とまったく同じポジションとなった。

日本酒はじゅうぶん飲んだからビールに戻す。
瓶はなく生だけで、それもエビスのみ。
背に腹は代えられず、仕方なく中ジョッキを―。
突き出しは鳥肉に大根・コンニャクが混ざった煮込みだ。
一箸つけると、あんまり美味しくない。
ちょいとイヤな予感である。

焼き鳥はハツを塩、レバーと背肝をタレでお願い。
ハツもレバーも下町の焼き鳥屋の水準に達していない。
予感は的中しつつあるが稀少な背肝を仕入れている店だ、
まだ希望を棄てるには早い。

そうしてこうして真打ち・背肝の登場。
ガッビ~ン!
焼け焦げだらけで食感悪く、苦味が出てしまってる。
焦げた部分をハサミでチョキチョキ、
剪定の一手間を怠るからこういう結果を招くのだ。
女性の焼き手だったが串を焼くシゴトの根本を理解していない。

熟れ寿司の売切れ、ほねくの未入荷、そして背肝の不手際。
肩透かし三連発を食らって哀れJ.C.、
黒房下にもんどり打って転げ落ちましたとサ。
ヤだ、ヤだ。

=おしまい=

「かっぱ」
 東京都目黒区中央町2-28-9
 03-3710-3711

「立花」
 東京都目黒区中町2-44-14
 03-3793-7434