2017年12月25日月曜日

第1772話 環七をバスは行く (その2)

高円寺発―赤羽行のバスに揺られていた。
幹線道路だから、かなりの速度でバスは行く。
停留所の間隔もかなり空いている。
降車するのは中板橋駅入口と決めていた。

暮れなずむ街並みが窓外を走り去ってゆく。
ぼんやりと眺めているうちに眠くなってきた。
高清水と菊正宗が効いてきたらしい。
まことにけっこうな心持ちである。
「次は大和町に停まります!」―
車内アナウンスに居眠りを妨げられた。

大和町だって?
さっき大和陸橋を渡ったはずだが
寝過ごして高円寺に戻っちまったんかい?
まさかとは思ったものの、やっちまった感にとらわれる。

何のこたあない、ここは板橋区・大和町であった。
大和から大和かい?
しっかたあんめェ、ここは大和の国だかんネ。
なんて呑気なことは言ってられない。
すでに中板橋駅入口を二つも乗り越してるじゃないの。

あわてて飛び降りて環七を歩いて戻る。
一本道だから迷うことはない。
しかしながら、ここでスケベ根性が頭をもたげた。
だいたいの土地カンはあるから路地を抜けて近道を行こう。
急がば回れの逆バージョンである。

大和町とはいうものの、電信柱の番地は本町だった。
しばらくして清水町に入った。
数年前に清水稲荷を通りすがった記憶がある。
目指す東武東上線・ときわ台駅前へは
まだずいぶん距離があるぜ。

中山道に出ると目の前に交番があった。
せっかくだから近道を訊いてみようかの。
”パトロール中”の立て札出して
留守中の交番が多いなか、ここは違った。
驚くなかれ、お巡りさんが3人も駐在していたんだ。
年配の巡査長が着席、ほかの二人は立っていた。
中へ入ったら一番若いのなんか敬礼までしてくれやんの。
いえ、べつに返礼はしなかったけどネ。

結局は薬局、環七へ戻って真っ直ぐ行けというのがオススメ。
そうじゃなくって近道を教えてチョーライ!なんて言えんもん。
素直に丁寧にお礼を述べて環七へは戻らず、再び裏道へ。
あっちフラフラ、こっちフラフラ、
小さな商店街を見つけるたびに浮気の寄り道をするもんだから
延々1時間も歩いて、やっとときわ台に到着した。
いいんだもん、腹ごなしにはちょうどいいんだヨ。
自分で自分を納得させ、目当ての洋食屋に入店の巻である。

=つづく=