2018年11月7日水曜日

第1997話 書割みたいな飲み屋街 (その5)

幡ヶ谷の町でマトウ鯛とまさかの出会い。
この美味なるサカナを最後に食べたのは
旧ユーゴスラヴィアを構成していた国の一つ、
スロベニアの首都・リュブリャナだ。

あれは2007年9月8日土曜日。
海鮮料理専門の「Spajza(スパイザ)」なる店だった。
スカンピ(赤座海老)、地中海スズキ、
大メイタガレイはすべて炭火焼き。
マトウ鯛だけが地中海風という料理名のアクア・パッツァ。
ほかにはポルチーニのリゾットとスロベニア野菜のサラダバー。
ワインは白がシャルドネ、赤はピノ・ノワール中心である。
総勢9名、華麗なる晩餐に揃いも揃って舌鼓を
ぽんぽこぽんのすっぽんぽんでありました。

「こまい」の壁にマトウ鯛を見初めて発した第一声は
「マトウ鯛があるんですか?」
「ええ、ありますヨ」
「おお、焼いてください」
飲みものを通す以前である。
だって売切れ御免だけは避けたかったからネ。

そうしておいて生ビールの中ジョッキを発注。
銘柄はサッポロ黒ラベルである。
唇に付いた泡を拭って再びメニューボードを見上げる。
マトウ鯛に心を奪われてろくに目を通してなかったのだ。
前話で紹介した北海の幸は
あとになってからしたためたものである。 

おっとまた一つ必注品を見つけたゾ。
東京湾からほとんど姿を消したしゃこ(蝦蛄)である。
道産かどうか定かでないが、これは見逃せない。
女将の手が空くのを待ってお願いした。

カウンターの客は3人きりだが
奥の小上がりに男女4人のグループが1組。
なんだかんだと注文が多い。
「すみませ~ん、氷とウーロン茶お願いしまーす」
「今忙しいからダメッ!」
ハハハ、怒られちゃってるヨ。

当方は突き出しの肉じゃがを合いの手に2杯目の中ジョッキ。
グループの女の子が畳をいざって顔を出した。
すると女将、J.C.の右隣りの女性にも目線を送りながら
「アンタたち、こないだ会ってるよネ?」
問われた2人はキョトンとしている。
「あらっ、だって同じ長野の出身じゃないの」
「エエーッ!」
同時に驚きの声。
おやおや、何だか面白い展開になってきたゾ。

=つづく=