2018年11月19日月曜日

第2005話 裕次郎の五反田だんだん

東京都心を包み込むようにして走るJR山手線。
じきに新駅が誕生するが現時点で全29駅のうち、
五反田は大好きな駅である。
好きな駅というのもヘンなハナシだが
プラットフォームからの眺めが素敵なのだ。
いや、素敵だったのだ。

電車を降りて東の方角に目を向けると駅前ロータリー。
今でこそカラオケボックスや洋服屋の無粋な看板に加え、
駅の事務所でも入っているのだろうか、
のっぺらぼうなビルが目の前に建っており、
いちじるしく美観を損ねている。
かつては29駅中、随一の佳景を造成していた。

この日は西五反田にある、
TOC(東京卸売センター)の地下食堂街でランチの予定。
待合せの時刻より30分も早く五反田駅に到着した。
しばし前述の景色を眺め、多少の落胆を引きずりながら
改札を出ると、線路に沿って北(目黒駅方向)に歩いた。
俳優・石原裕次郎の面影をもとめてネ。

ものの5分も歩くと
「助川ダンス教室」の看板を掲げたビルが見えてくる。
いつの間にか、その1階にはイタリア料理店が開業していた。
このビルの左隣りに古い石段がある。
たった22段の短いものだが
裕次郎ファンにとってはかけがえのないスポットなのだ。

映画「嵐を呼ぶ男」(1957)をご覧になった読者は少なくないハズ。
映画ではこの階段の上に裕次郎の一家が棲むアパートがあった。
夜更けに家を飛び出した彼がここでドラムならぬ、
ドラム缶を棒きれでたたく。
騒音に腹を立てた近所のオッサンが怒鳴りつけたネ。

通常は撮影所のセットで済ませられるシーンなのに
監督・井上梅次はロケを選択した。
この場所、この石段の存在を
井上、あるいはスタッフの誰かが知っていたに違いなく、
おかげでファンに裕次郎をしのぶよすがを残してくれることになった。

段数を数えながら石段を2往復する。
頭の中では

 この野郎、かかって来い!
 最初はフックだ・・・ ホラ右パンチ・・・
 おっと左アッパー・・・

裕次郎の声がこだましていた。

ちょくちょく徘徊する谷中に夕陽の名所、”夕やけだんだん”がある。
そうだ、あやかってこの石段を”裕やんだんだん”と名付けよう。
そして五反田界隈にやって来たなら、必ずここを上り下りしてやろう。