2018年11月30日金曜日

第2014話 ビールの小瓶でカキのバタ焼き (その2)

今年で創業114年を迎える、
人形町は甘酒横丁の「来福亭」。
”お座敷洋食”と明記された卓上の品書きを見つめて
悩みに悩むハムレットがいた。
ハムレットならハムとオムレットでハムオムレツにするか?
いや、それじゃ元も子もない。
今日はハナからカキを食べる気満々だもん。

このあと立ち寄りたい店がもう1軒あって
ライスまでやっつけちゃうと、自由が利かなくなる。
よってオーダーは単品。
ゆえにビールまで小瓶に抑えたのだ。

ライス付きならフライがよかろうが
小瓶の合いの手にはソテーがふさわしかろう。
決め手はそこだった。
オバアちゃんに
「カキのソテーをお願いします」
彼女応えて
「バタ焼きですネ?」
エッ、メニューにはソテーって書いてあるじゃん。

つい先日、江東区・大島の餃子屋で
中国娘にニラレバをレバニラと言い直されたばかり。
料理の名前には少々敏感になっている今日この頃だ。
でもネ、ニラレバとレバニラが同じであるごとく、
ソテーとバタ焼きも同じであろうヨ。

脂っ気の多いチキンやポークのソテーなら
またベツのハナシになろうが
淡白な魚介類の場合、カキやホタテはもとより、
エビでもイカでもソテーといったらバタ―でしょうヨ。

ちなみにカキとホタテはフライもソテーも単品で800円。
お食事セットにすると1000円。
ビールの小瓶が400円だから
ライス・スープ・漬物のトリオより割高となるが
当日のスケジュールを考慮すれば、賢明な選択と言えよう。

軽く小麦粉をはたかれ、
バターで焼かれたカキは中ぶりが5粒。
よい香りが鼻腔をくすぐる。
「お好みでどうぞ」―
ひと言添えたオバちゃんが醤油差しを置いてゆく。
皿には千切りキャベツ、パセリ1片、レモンスライス1枚。
加えて見るからに緩めのタルタルソース。

卓上のカスターは塩・胡椒・ウスターソースに
ペーパーナフキンとつま楊枝の5点セット。
ガラス製のソース差しの大きさが
”当店は洋食屋にございます”
そう宣言しているようで
歴史に裏付けられた頼もしさを感じさせる。

=つづく=