2018年11月20日火曜日

第2006話 ニクシチなる珍品 (その1)

”裕やんだんだん”にて
裕次郎の面影をしのんだあと、五反田駅に舞い戻った。
改札口で相方とおち合い、中原街道を南下してゆく。
東海道よりはるかに長い歴史をきざむ幹線道路は
赤穂浪士が江戸入りに利用したルートと語り継がれている。

南下といってもたかだか10分足らずでTOCに到着。
服飾にはそれほど興味がないので地下の食堂街に直行した。
アパレル界に従事して、ここをよく訪れる友人からは
「ロクな店がないヨ」と釘を刺されていたものの、
ニクシチなる一皿を供する食事処があると聞いていた。
豚肉の生姜焼きに大量の七色を投入しただけらしいが
どんなものか試してみる気でいた。

ぐるりと一周して友人の忠告に納得。
昭和の匂い、というより食べものの臭いが立ち込めている。
店頭に立ち止まり、メニューに見入っても
惹かれる店がまったくと言っていいほどにない。

浮気をせずに「志野」に入店した。
店内は左側から厨房、テーブル席、小上がりのレイアウト。
われわれは靴を脱いで上がり込んだ。
ニクシチの正式名は豚肉七味炒め定食。
これは決めてあるから、もう1品の選考に入る。

おっと、その前にビール、ビール。
”裕やんだんだん”を上り下りしたせいもあって
ノドは相当に渇いている。
接客のオジさんに銘柄を確かめてガッビ~ン!
何と、エビスの瓶だけだとヨ。

それはないぜ、セニョール!
そりゃ、山手線で恵比寿駅は五反田の隣りの隣り。
ここはサッポロビールのテリトリーだってことは理解できる。
ならば、せめて赤星か黒ラベルも置いておくれヨ。

よって中瓶1本だけお願い。
実はここへ来る途中、中原街道沿いに
とんこつラーメンの「一風堂」が新しく展開を始めた、
「一風堂スタンド」があるのを確認していた。
「日高屋」や「銀だこ」に倣って、
手っ取り早く言えば、真似をして乗り出した飲み処。
帰りに立ち寄り、気に入りの銘柄で口直しならぬ、
ノド直しをすれば、それで済むことだ。

協議の末、もう1品はあんかけ焼きそばとした。
相方は支那そばを食べたがったが
スープ麺はシェアしているうちにノビやすいし、冷めやすい。
よって要望を却下した次第なりけり。

=つづく=