2019年2月18日月曜日

第2070話 ごま油の匂いに誘われて(その2)

「はちまき」に戻って上天丼をピックアップ。
ついでにレジ脇にあった店のビジネスカードと
月刊文化情報誌「本の街」をいただく。
天丼を買い求めたおかげで、
もう何処にも寄らない踏ん切りがついた。
今宵の酒量も抑えられることだろう。

冷蔵庫から缶ビールを取り出し、包みを拡げた。
看板に偽りのない天ぷらがごはんの上に並ばっている。
ごま油の香ばしい匂いが食卓から立ち上がる。
まずは2本ある海老からだ。
コロモの花の散り具合よろしく、
海老本体は火の通しが浅すぎるほどに浅い。
おそらくベトナムあたりのブラックタイガーだろうが
じゅうぶんに美味しい。

ホロホロのきすもなかなかイケる。
ぶっとい棒状のいかだって、けして悪くはない。
ここでビールをもう1缶。
飲みながら食事に移った。
残された海老・蓮根・ピーマンにたっぷりのごはん。

味噌汁を作るのは面倒だけど、何か吸い物がほしい。
こんなときに重宝するのが、おぼろ昆布だ。
わが家はこの昆布を切らしたことがない。
今宵は静岡産のしらす干しを加えてみた。
あとは熱湯と生醤油のみで、出汁などとらない。
ごはんは半分ちょっとでギヴアップ。
もともと多いんだから仕方ないやネ。

食後、ウイスキーのハイボールに切り替え、
「はちまき」のビジネスカードを手に取った。
”江戸川乱歩ゆかりの店”とあって
現在の代表は三代目。

主な常連様のリストが記されている。
乱歩のほかには
海音寺潮五郎 山岡荘八 佐野周二
三国連太郎 辰巳柳太郎
といった面々。

学生服姿の学生たちを前に
揚げ場に立つのは初代だろう。
トレードマークのねじりはちまきがキマッている。
よく撮れたもんだと感心するほど、
カードに刷られたスナップ写真はグッショットだ。

小冊子「本の街」には三代目の寄稿文が掲載されていた。
初代と二代目は戦前・戦中・戦後にかけて
大変な苦労をされたようだ。
”上質の食材・油・粉でおもてなし”
”創業昭和六年 寅吉・文雄の蒔いた種は今日も花開く”
古本の街・神保町に今もさり気なく咲く、
散ってはほしくない花一輪が「はちまき」である。

「はちまき」
 東京都千代田区神田神保町1-19
 03-3291-6222