2019年2月22日金曜日

第2074話 雪がチラホラ 大塚の街 (その4)

J.C.がこよなく愛する大塚「江戸一」。
真澄から浦霞の、やはり上燗に切り替える。
ぬるくもなく熱くもない、
ちょうど中間の上燗が絶対の好みである。

千代の光をお替わりした相方・Fチャンが訊いてきた。
「浦霞ってどこの酒? 茨城?」
「ええ~っ、どっから茨城が出て来んの、宮城ヨ、宮城っ!」
「だって、霞ヶ浦の辺かなと思って・・・」
バカバカしくもハッとする自分がいた。

浦霞→霞ヶ浦ねェ。
今まで何十回も口にしている銘柄ながら
この連想はまったくのノーマーク、言われて初めて気づいた。
このオッサン、まんざら馬鹿にしたもんじゃないな。
そしてなぜかこの日の浦霞は一味違った。
コルテーゼ種を使用したピエモンテ産白ワインの如き風味。
初めてそう感じたのだった。

そろそろ蟹のとも和えを通そうと思ったその矢先。
品書きの木札が裏返された。
アン〇○○〇ング・ビリーヴァブル!
むろん、頼んだ客に罪などないが
トンビに油揚げをさらわれたような心持ち。
いやはや、痛恨の出遅れであった。

よって新香盛合せにハンドルを切る。
「江戸一」の必注種目の1つは
手造り感満載にして葉菜・根菜の彩りが美しい。
隣りは和風ポタージュみたいなごぼう汁を
満足気にすすっている。

今度は浦霞から惣花に移行。
宮内庁御用達の老舗酒問屋「加島屋」の銘酒は
先の皇后陛下、香淳皇后がご愛飲なされていたとか—。
そう言われてみれば、
なるほど、ふくよかで高貴な口当たりですこと。

真澄1、浦霞2、惣花2。
いつの間にやら目の前に空の銚子が5本並んだ。
千代の光以降の相方の分まで覚えちゃいないが
やはり5本の銚子。
トータル10本が2人の前に林立している。

当店は空いた銚子を最後まで下げない。
会計の際、これを見て女将が算盤パチパチするわけだ。
でもネ、客の立場からすると、このシステムには難点が1つ。
誰がどれだけ飲んだのか一目瞭然で隠しようがない。

これが客たちの競争心をあおりにあおる。
そのすさまじきこと、あおり運転の如し。
ためしにカップルで訪問して目の前に2本くらい並べて
長居でもしてごらんなさい。
周りからの冷たい視線にいたたまれなくなっちゃうから。

その点、われわれは2人で10本、心なしか誇らしい。
別段、背中に尊敬の眼差しは感じなかったが
意気揚々と引き揚げた。
いや、ひょっとしたら尊敬どころか軽蔑だったかもしれない。
(2人揃って馬鹿だなあいつら。つける薬がないヨ)ってか!

=おしまい=

「江戸一」
 東京都豊島区南大塚2-45-4
 03-3945-3032