2022年12月14日水曜日

第3167話 時代(とき)が止まったよな酒場 (その1)

西五反田はTOCビル地下、飲食店街を一めぐり。
櫛の歯が欠けるように閉業した店舗が目立つ。
ザッと見、残っているのは3~4割といったところかー。
4年前に利用した「食事処 志野」は今も健在、
そして盛況、競合店がかなり減ったしネ。

ビルの前に五反田駅とのシャトルバスが停車中。
大した距離ではないが乗った。
歩き、電車、バスを組合わせ、
上手いことタイム・キリングしながら
到達したのは江戸川区・松江だ。

同じ松江でもこちらは
宍道湖の代わりに中川が近くを流れている。
江戸川競艇場もそう遠くはない。
ちなみにこの競艇場、江戸川ではなく、
中川の川面を活用している。

16時を回り、開店間もない、
「伊勢周」の敷居をまたぐと先客はゼロ。
此処へ来るのは2018年2月以来だ。
のみともと界隈を4軒も飲み歩いたっけ。

時代(とき)が止まったよな空間に身を置く。
ドライの中ジョッキをグイッと飲って
シアワセを肌で感じた。
ナシレマのせいで空腹感はまったくない。

何か軽いものをー。
赤貝刺しを通し、ドライの大瓶に切り替えた。
「ジョッキで飲むからグラスはいいですヨ」
「あら、だいじょうぶ?」
カウンターはオバちゃん独り、
厨房はオニイさん独り。
客もわれ独り。

ほどなくオバアちゃんが出勤して来て
オバちゃんの横に立ち並んだ。
かなりお歳を召してらっしゃるが
大女将といった風格が漂う。

赤貝は肉薄で軽かった。
おそらく韓国産だろう、でも美味しい。
宮城・閖上の本玉は肉厚だが
目玉が飛び出るほどに高価。
目方で比べりゃ、
黒あわびと変わらないんじゃないかな。
赤貝で思い出されるのが作家・久保田万太郎だ。

湯豆腐や いのちのはての うすあかり

あまりにも有名な句だが
彼を命の果てへと導いたのは
豆腐ではなく、赤貝であった。

=つづく=