2024年6月28日金曜日

第3568話 「雷鳥」に翼を休めて (その2)

西武池袋線の通る石神井公園。
「雷鳥」に疲れた翼を休めている。
煮凝りがいい感じに旨い。
日本酒が欲しくなり、品揃えをチェック。

おや? 雷鳥なる酒があるゾ。
長野県は木曽山脈(中央アルプス)のふもと、
伊那市の(株)仙醸の手になるものだ。
雷鳥は長野の県鳥でもあるしネ。

「1合に足りないものですから
 半合でしたらご用意できますが・・・」
「ああ、いいですヨ、半合で」
舌に乗せると、同じ長野でも
真澄や大雪渓とは味わいが異なる。
すっきりではないし、どっしりでもない。
清涼感よりも日本酒らしい安定感があった。

煮凝りが溶けかかってきた。
よく居酒屋で見かけるヤツに
温度が上がっても全然溶けないのがあるが
あれはいただけない。
本物の煮凝りって溶けるものなんだ。

締めのそばにする。
食が細いくせに欲張りなJ.C.、
せいろ・田舎・変わりの三色そばを所望した。
本日の変わりそばはトマト切り。
産地と品種はせいろが北海道十勝産・北早生、
田舎は茨城県下妻産・常陸秋で
トマト切りのみ、明記がなかった。

せいろはごくフツー、ぶっとい田舎にたじろぐ。
トマト切りにはトマトジュースのようなつゆも。
担当のハマちゃん曰く、
「まず通常のつゆで味わってから
 こちらもお試しください」
言われた通りにしたがトマジューは
あまり意味がないように思われた。
お勘定の3971円はちと高くないかな?

帰りの電車は池袋行き急行。
別段やることもないから
さっき貰ったレシートをぼんやり眺める。
ありゃ、日本酒・雷鳥が1合と半合、
両方ついてWチャージと来たもんだ。

池袋到着後、「雷鳥」に電話を入れる。
電話口にハマちゃん出て来て平謝り。
「大した金額じゃないからいいんだけど
 このまんまにしとくのも何だし、
 近いうちにおジャマするネ」
「どうもすみません」
「近所の『辰巳軒』に寄る前、
 軽く1杯でかまわないかな?」
「もちろんです。
 ご迷惑おかけしてすみません。
 わたしたちもよく行くお店なんです。
 お待ちしておりますネ」
てなこって近々の再訪が約束されました。

「雷鳥」
 東京都練馬区石神井町3-17-12
 菊花堂ビルB1
 03-6913-1596

2024年6月27日木曜日

第3567話 「雷鳥」に翼を休めて (その1)

吉祥寺駅前から乗った成増町行きバスは
東京女子大→上石神井駅→富士街道→
石神井公園駅北口と走った。
時刻はまだ16時ちょい前である。

この町に来れば、必ず立ち寄る、
洋食・中華の「辰巳軒」に
ダメ元で行ってはみたが
やはり夜の営業は17時半から。
もう1軒、利用したことはないものの、
認知はしている日本そば屋に赴くと
こちらは17時のスタート。
たった30分の違いでもこの差は小さくない。

それでもそれまで1時間、どうにかしなきゃ。
石神井公園に向かった。
井の頭公園転じて石神井公園と来たもんだ。
石神井池では水鳥たちのお出迎え。
マガモ・オナガガモ・カワウ・カイツブリ。
生き物好きの気持ちを和ませてくれる。

17時近くになり、さっき降りた坂道を戻る。
すると竜鉄也のシブい歌声が聞こえてきた。

♪ 抱いたのぞみの はかなさを
  知るや谷間の 白百合よ
  泣いてまた呼ぶ 雷鳥
  声もかなしく 消えてゆく
  あゝ 奥飛騨に 雨がふる ♪
   (作詞:喜多條忠)

盲目の演歌歌手が作曲をも手掛けた、
「奥飛騨慕情」は1980年のリリース。
その3番である。

浪花の小姑のそしりを怖れず、
竜サンに登場願ったのにはワケがある。
日本そば屋の屋号が「雷鳥」なんですわ。
西荻から吉祥寺、そして石神井公園と飛び続け、
疲れた翼を「雷鳥」に休めることとなりました。

よくよく考えても
歌詞に雷鳥の登場する曲をほかに知らない。
雷鳥を名乗る店舗もほかに知らない。
間口の狭い階段を地下へ降りていった。

そば屋らしくないモダンな造作。
開店とほぼ同時の入店なのに先客が2組。
促されたカウンターに落ち着く。
ビールはサッポロ赤星の大瓶。

刺身二点盛りは金目鯛&しまあじ。
注文しかかって思いとどまる。
昼の〆鯖が脳裏をよぎって昼夜ともに
日本そば屋で生モノというのもなんだかァ。

魚の煮凝りが真鯛主体とのことで
そちらにしてみた。
このあと日本酒に移行するつもりだから
そのアテとしてもバッチリだ。

=つづく=

2024年6月26日水曜日

第3566話 肌の合わない 吉祥寺

西荻の「鞍馬」をあとにして歩き始めたとき、
悪魔のささやきが聞こえた。
(これから何処へ行くんだい?
 吉祥寺はすぐそこだぜ!)
このことであった。

実はJ.C.、西荻は大好きなんだが
隣りの吉祥寺は大の苦手。
昔から肌が合わないのである。
よってなるべく避けてきたが
最後に訪れたのは一体、いつのことだろう。

帰宅後、調べてみた。
2001年5月にイタリアンの「iL CHIANTI」で
晩めしを食べている。
先刻の「鞍馬」の半年前で同じ年。
奇遇と云えば奇遇だ。

当時の部下のR恵チャンと一緒だった。
彼女はJR中央線の立川より先に棲んでおり、
通勤に片道1時間半は要したハズ。

「オカザワさんとの食事は
 お酒もけっこう入っちゃうんで
 会社のそばだと帰りがキビシいんです」
「うん判った、じゃ帰りやすいとこにしよう。
 新宿とか、中野とか?」
「吉祥寺はいかがですか?」
「ええ~っ! 吉祥寺かい? 
 そりゃまたずいぶん・・・」
「オカザワさんの好きな西荻の1コ先ですヨ、
 ダメですか?」
「いいヨ、ハイ、ハイ、吉祥寺ネ?」

昔から部下にはやさしいのである。
あれから23年かァ!
いくら肌が合わないとはいえ、
かくも長き無沙汰とは思わなんだ。

てなこってこの日は決断し、ひと駅歩いた。
駅前のハモニカ横丁ならどこか開いてるだろう。
選択肢は5軒ほどあったが
脚を止めたのは愛想の好い娘のワン・オペ、
スタンド・ワインバーである。
ただし、ビールがないんでやんの。

カリフォルニアのピノ・ノワール、
アデュレーション'22 を所望した。
1グラス千円である。
先客のオジさん2人としばし談笑していたら
パラパラと客が出没、少々混んできた。

井の頭公園にでも行ってみようかな?
もう1杯お替りし、駅前に来ると
板橋区・成増町行きのバスが停まっている。
おっと、石神井公園経由じゃないか、
ええい、乗っちゃえ。
この街はやっぱ、長居するとこじゃないや。
あばよ、吉之助、発車オーライ!

「立ち呑み ばっかす」
 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-1-8
 電話:ナシ

2024年6月25日火曜日

第3565話 「鞍馬」の〆鯖に 惚れ込む

JR中央線沿線で一番好きな町は西荻窪。
おっとりとした表情が気に入っている。
この町きっての日本そば屋、
「鞍馬」のことを不図、思い出した。
先日、京都の地下鉄を鞍馬口で降りたせいかな?

訪ねてみた。
2001年11月以来だから半世紀に成らんとする。
あのときも独りだった。
ドライを飲み、お通しのそば揚げをつまみ、
品書きをつぶさにチェックする。

ん? 伊豆わさびのかえし漬け?
眼(まなこ)を射抜かれた。
葉わさびだろうか? 花わさびかもしれない。
お運びのオネエさんに訊ねると
「茎とか葉っぱとか入ってるんですが・・・」
「フフ、じゃ、それお願い」

何のこたあない、わさび本体から
チョコチョコっと生え出る茎を
そばつゆのかえしに漬け込んだものだった。
お味はけっこうなれど、ヤケにしょっぱい。

大量に生わさびを消費するわが家では
この茎を生醤油と清酒の同割りに漬け込む。
よってまろやかな味わいとなる。
板場に教えてやろうかな、いや、やめとこう。

〆鯖を追加した。
京都ではさんざ鯖寿司を食べたが
〆鯖は食べていない。
彼の地ではきずしと呼ぶ。
おそらく生寿司のことだろう。

これが素晴らしかった。
下手な割烹や鮨屋の上をゆく。
いやはや、惚れ込んじゃいました。

「鞍馬」はそばにも鯖にも本わさび。
しかしながら絶対量が少ない上に
おろし置きのため、ヘタッてしまっている。
そこんところが何とも残念。

中瓶のお替わりとともに
箱盛りそばと呼ばれるせいろをー。
さすがに西荻の誇る名店、
そばもつゆもキリリと締まってスキがない。
そば湯をいただき、お勘定は3650円也。

せっかく杉並区のはずれまで遠征したのだ。
このまま都心に引き返すわけには参らん。
このとき耳朶の奥で悪魔がささやいたのでした。

「鞍馬」
 東京都杉並区西荻南3-10-1
 03-3333-6351

2024年6月24日月曜日

第3564話 バスに乗り込む 反射神経

駿河台の明大前でバス停を
通りすがったらスッとバスが停まった。
普段からなるべく車道の左側を歩くように
心がけているが、この日もそうだった。
自分の歩きと同じ方向にバスも走るからだ。
逆方向のバスだと乗る気にはならない。
今来た道筋が無駄になるからネ。

獲物を狩る肉食動物は
ターゲットが逃げるために走り出すと
本能的に後を追いかける。
J.C.の本能も近くにバスが停まり、
走り出そうとすると
つい、つい、飛び乗ってしまう。
その反射神経の鋭さたるや相当なものだ。
何せ、Japanese Cat の異名を取るからネ。

気まぐれに乗り込んだバスは荒川土手行き。
まことに失礼ながら人の棲まない辺鄙な場所だ。
1時間に2本程度しか来ない稀少なバスに
乗ってから考える、はて何処で降りようかな?

右手に聖橋を眺めながら
神田川をお茶の水橋で渡ったバスは
東大前→本駒込→動坂下→田端と通過してゆく。
荒川区・小台で下車を決めた。
揺られながら気になる店を思い出したのだ。

「街仲食堂」は変わった店で
近所の奥様たちの得意料理なんぞも提供する。
壁にズラリ貼られた品書きの短冊に
しらたきと明太子あえ(みつえさん)、
かぶと新玉ネギとハムのマリネ(けい子さん)、
鶏南蛮(まり子さん)などが見える。

いかにも素人料理という感じは悪くないけど、
やはり食指が動かない。
好物の馬刺しをカールスバーグの小瓶と通した。
馬肉の産地を訊きそびれたが柔かい赤身は旨い。

長崎県・壱岐の麦焼酎をロックでー。
お次はサントリー知多のソーダ割り。
そしてビールに引き返し、メキシコのコロナ。
「ライムの代わりにレモンなんですが・・・」
「ああ、レモンはなくてもけっこう」
「ハイ、かしこまりました」

NYで飲んで以来だから
30年ぶりくらいじゃないかな?
そろそろ飲んでもいいコロナ。
この名前じゃ、コロ助のせいで
大きな打撃を受けたろう、可哀想に。

お勘定は3千円とちょっと。
貰ったレシートに
=料理上手なおかあさんとお酒=
是非、またおかあさんたちの
美味しくて優しい手料理を
食べにお越しください
とありました。

「街仲食堂」
 東京都荒川区西尾久3-20-4
 090-1403-5715

2024年6月21日金曜日

第3563話 気ままに京都 一人旅 (その10)

土曜の朝の錦小路。
昼はインバウンドに占領される小路も
早朝にはかつての姿を取り戻す。
みやげといっても自分用だが
購入したものをつまびらかにしてみましょう。

「川政」で静岡産生わさび。
御殿場か天城か定かでないが静岡のどこか産。
ブットいのが1750円と東京よりお買い得。

「丸弥」では青い実山椒。
たっぷりあって961円とこれまたお買い得。
下処理が大変ながら
買っちまったもんは仕方ない。

「馬場商店」の琵琶湖産小鮎塩焼きが5尾500円。
東京ではなかなか見掛けぬ小サイズがうれしい。
今宵の晩酌はこれでスタートの予定なり。

「麩房老舗」では生麩田楽(700円)に
餡入りの麩まんじゅう(5個1000円)。

最後に川魚専門店「のとよ」にて
琵琶湖産本モロコ佃煮(700円)、
鰻肝しょうが煮(500円)、
そしてこの日の晩めし用に
小さめの鰻重(1200円)、これにて完買。

「麩房老舗」で見栄えの良い、
立派な手提げ袋を買い求め、すべて詰め込み、
意気揚々とスタスタスタ。
向かったのは四条大橋である。

今日のランチは大正5年創業「レストラン 菊水」。
大橋の東詰北側、ちょうど南座の真向かいに
風格に満ちた佇まいを見せている。
(建物は大正15年築)
ちょうど対面(といめん)西詰南側に位置する、
「東華菜館」と覇を競い合うが
建物のインパクトの強さでは一歩譲るかな。

ドライ中瓶とフィレビーフカツの単品をお願い。
パンはさっき「神乃珈琲」で
トーストを食べて来たもんでネ。
フィレステーキに傾きかけたものの、
郷に入れば郷に従え、上方ではビフカツだろう。

ドライ中瓶とほぼ同時に
ラディッシュをあしらったポテサラが小皿でー。
ほどなく4切れにカットされたフィレカツ。
中心が薄紅色に美しい。
藤村の「惜別の唄」に登場する、
♪ 君くれないの 唇も ♪
かの乙女の如し。

中瓶をお替わりし、金3850円也を支払い、
地下鉄烏丸線に乗って四条烏丸から二つ先、
京都駅へと向かいました。

=おしまい=

「川政」
 京都府京都市錦小路富小路角
 075-221-3773

「丸弥」
 京都府京都市錦小路麩屋町西入ル
 075-211-0794

「馬場商店」
 京都府京都市錦小路富小路東入ル
 075-221-4493

「麩房老舗」
 京都府京都市錦小路麩屋町東入ル
 075-221-0197

「のとよ」
 京都府京都市錦小路柳馬場東入ル
 075-231-0813

「レストラン 菊水」
 京都府京都市東山区川端町187
 075-561-1001

2024年6月20日木曜日

第3562話 気ままに京都 一人旅 (その9)

新京極の「京極スタンド」。
鯉のあらいですらあまり好まぬのに
鮒のあらいはどんなものだろう?
うざくほどではないが
かなりの量のきゅうりもみが添えられ、
鮒本体には黄色い粒がまぶさっていた。

けしの実じゃないし、何だろう?
魚卵っぽいな。
接客のオニイさんに訊ねたら
着色された、たら子だった。
酢みそのおかげもあり、食味はまずまず。
日本酒が欲しくなり、月桂冠樽酒を1杯。
伏見の酒である。

しばらく豆腐を食べていないため、
冷奴を通すと、ほとんど1丁。
たっぷりの削り節におろし生姜、
そしてここにも青ねぎである。
京都に白ねぎは存在しないのかァ!

毎日よく歩くため、疲れが溜まってきた。
そろそろ帰ろう。
疲れてはいてもまた歩きだ。
ホテルの近くの若宮町で
「くつろぎ処 葉菜(はな)」に遭遇。
串揚げやお好み焼きを出す居酒屋である。
あとで知ったことだが
500円で真っ当なランチを提供してもいる。

ドライの中瓶にわりと好物のとん平焼きをー。
イタリアンのイニッツィオみたいなお通しが来た。
白い小皿に、枝豆・揚げかぼちゃ・バジルトマト。
居酒屋にしてはシャレている。

とん平焼きが、で、でっ、でっけェ!
まるでオムライスの大盛りじゃんかー。
全体をケチャップが覆い、
五月雨状のマヨネーズに青海苔が横一線。
でもサ、こんなには食えないヨ。

包みを割ってみると焼きそばがギッシリ。
関東じゃコレをとん平焼きとは云わない。
オム焼きそばと呼ぶ。
腕まくりで挑み、どうにか平らげた。

こんな時間に鱈腹食っちまって
なかなか寝付けなかった。
翌朝は早起きしてチェックアウト。
ホテルのシャトルバスで京都駅へ。
コインロッカーに荷物を放り込んだら
四条烏丸に一直線、錦小路でみやげの調達だ。

おっと、その前にブレックファースト。
あのアイスコーヒーが恋しく再び「神乃珈琲」。
銀座や目黒にもあるのに
わざわざ京都で立ち寄る必要はないんだが
朝めしで銀座にゃ行かん、築地ならともかく。

トースト・ゆで玉子・サラダにアイスコーヒー。
やはり此処の朝食は良質にして上等。
ドトールもやるなァ、思いを強くしたものです。

 =つづく=

「京極スタンド」
 京都府京都市中京区新京極通四条上ル中之町546
 075-221-4156

「くつろぎ処 葉菜(はな)」
 京都府京都市下京区若宮町554-3
 075-361-8650

「神乃珈琲 京都」
 京都府京都市中京区高倉通錦小路下ル帯屋町591
 075-241-3008

2024年6月19日水曜日

第3561話 気ままに京都 一人旅 (その8)

参道の勾配を稲荷大社へと上ってゆく。
途中「お食事処 稲福」の店先で脚が止まった。
ここには「祢ざめ家」がすでに取り扱いを
終了した雀焼きがあるじゃないかー。

あたりは修学旅行の中・高生でごった返してる。
日本全国津々浦々、およそ3万社に及ぶ、
稲荷神社の総本社がこの伏見稲荷大社だ。
1万本はあるといわれる千本鳥居を
くぐり始めてはみたけれど、参拝客の数に閉口。
ラグビーのスクラムほどではないにせよ、
完全なるモール状態。
根性ナシのJ.C.ははかなくリタイアを決め込む。

再びJR奈良線で京都駅。
駅に近い東寺の五重塔を拝みに往く。
すると東寺の手前に伏見稲荷の御旅所があった。
御旅所(おたびしょ)は神社の祭礼で
神輿が巡行の途中に休憩する場所のこと。
偶然とは言え、何となく因縁を感じた。

平安京唯一の遺構、
東寺の五重塔は京都のランドマーク。
修学旅行生の間では
京都タワーに押されがちだがネ。
御影堂(おえどう)には入らず、
弘法大師空海と心の交流はありませんでした。

続いてやはり駅チカの東本願寺へ。
浄土真宗大谷派の総本山に山号はなく、
真宗本廟が正式名称。
たびたび消失の憂き目を見ており、
現存の御影堂(ごえいどう)は
明治28年の完成ながら
その巨大さに度肝を抜かれる。
世界最大の木造建築に靴を脱いで上がった。

ホテルで小休止したものの、すぐに出発。
17時半には四条河原町に近い、
裏寺町の「たつみ」で飲み始めた。
ここはロの字カウンターの奥側に
立ち飲みスペースがあり、居心地が好い。
小物中心に多彩なつまみもうれしい。

ドライ大瓶に香住直送のかにみそをー。
東京の酒場のかにみそとはひと味違った。
黄桜の冷たいのに切り替え、奈良漬を所望。
さっきJR奈良線に乗ったのでつながった。
辛子が添えられ、ん?と思ったが意外に合う。
しかし、次の豚&玉ねぎの串かつで失敗。
パン粉がガシガシを通り越してゴリゴリ。
価格急騰中のキャベツはタップリだけどネ。

2日前にも訪れた近所の「京極スタンド」に移動。
一番搾りの中ジョッキを飲みつつ、
壁の品書きを見上げると、ふなのあらいがあった。
鮒は佃煮風の雀焼きを食べたことがあるだけ。
コイツは珍しい、行ったれ!

=つづく=

「たつみ」
 京都府京都市中京区裏寺町四条上ル中之町572
 075-256-4821

2024年6月18日火曜日

第3560話 気ままに京都 一人旅 (その7)

8時前に起床、今日の朝食は喫茶店に非ず。
京都駅まで歩き、JR奈良線で伏見稲荷大社へ。
第一の目的はお稲荷さんではなく参道にある、
1540年創業の「祢ざめ家」であった。

豊臣秀吉ゆかりの当店は
お気に召した太閤が屋号に
愛室・祢々の字を当てろと
云ったとか、云わなかったとかー。

10時の開店前に赴くとすでに
オバちゃまが一人店頭に待機していた。
早起きは三文の得、ではないけれど
「祢ざめ家」は朝めしに限る。
だからこその10時開店である。

大して食えもしないくせに
いろいろ食べたがるJ.C.、
絶好の献立は、ねねうなセット(2000円)。
うなぎ蒲焼きに小さいそば、
寿司3種(いなり・太巻き・さば寿司)が
すべて味わえる至福の盛合わせ。
それに名物の鶉(うずら)焼き(900円)と
スーパードライの中瓶をお願いした。

鶉は頭が付いている。
「頭からいっちゃってだいじょうぶですか?」
「ええ、いただけます」
女将に確かめてかぶりついた。
いえ、頭は最後に残してネ。
うむ、けっこうですな。

セットはノビないうちにそばからいただく。
中太のかけそばは京都なので
出汁がうどんのそれと同じ。
秀吉の時代にそばきりはまだなかろうが
なかなかでありました。

蒲焼きは小ぶりながらも香ばしく、
存分に満足のいくもの。
昆布の炊いたんが添えてあった。

いなり寿司の酢めしには
黒ごまとごぼうに麻の実が加わる。
実山椒よりやや小粒で、風味というより、
食感のアクセントだネ、これはー。

太巻きは玉子焼き・しいたけ・かんぴょう、
それに緑の野菜は壬生菜(みぶな)だろうか?
ていねいに巻かれて老舗感満載。

白眉はさば寿司。
「てしま」、「満寿形屋」と
連日食べて来たが「祢ざめ家」がベスト。
寿司たちはみな一つづつなので
中瓶とともにすかさず2カン追加したほどだ。
何がいいって第一は酢めしである。
酢・塩・砂糖の、文字通り塩梅が実にけっこう。

お勘定は5900円でありました。
ほとほと旨し。

=つづく=

「祢ざめ家」
 京都府京都市伏見区深草稲荷御前町82-1
 075-641-0802

2024年6月17日月曜日

第3559話 気ままに京都 一人旅 (その6)

「満寿形屋」のお勘定は2550円也。
気分晴ればれ、再び歩みを進める。
賀茂川と高野川が添い遂げる出町橋に来た。
此処こそが若狭へと続く鯖街道の起点だ。

すぐそばの下鴨神社に向かう。
神社はだだっ広く、
糺(ただす)の森と呼ばれる原生林、
復元された古(いにしえ)の奈良の小川、
美麗の神を祀るため、
あまり美しくない(?)女性の信仰を集める、
河合神社など、みどころが少なくない。

賀茂川と高野川が合流して鴨川。
J.C.が今までに訪れた世界の国々は五十数か国。
国内なら四十四都道府県。
街を流れる川を数限りなく見てきたが
一番美しいのはこの鴨川、迷わず断言する。

川が街と人に溶け込んでいるのだ。
今日は多くの鳥たちにも出逢った。
鴨川だけにまず真鴨。
そして青さぎにとんび。
彼らは人間たちをさほど怖れていない。
とんびなんざ、人が開けた弁当を虎視眈々。

ホテルに戻って一休み。
京都に来てからというもの、
歩数は連日3万歩を超えている。
今日も3万5千はいきそうだ。

四条烏丸の「萬福」へ。
前日、歩いていて見つけたうどん屋だが
中華そばが人気で店頭の雑誌の写真は
J.C.好みのアッサリ系、即食べようと思った。

ドライ中瓶と牛すじ煮込みをお願い。
すると煮込みが大当たり。
牛すじ以外は青ねぎがこんもり。
練り辛子が添えられ、麦酒との相性バッチリ。

中瓶をお替わりして念願の中華そば。
ももチャーシュー2枚、もやし、
これにも青ねぎがいっぱい。
中細真っ直ぐの麺にスープは鳥ガラが主張。
こんな素朴なラーメンがどんどん消えてゆく。

飲み足りないので河原町へ。
木屋町のパブを通りすがると
TVのサッカー中継が目に入った。
この日はW杯予選のミャンマー戦。
ホテルで観るつもりはなかったが
やってるなら拝見しまひょ。

カンパリソーダを通してTVの前のカウンター。
周りを見渡すと、みんな水タバコをプカプカ。
そう、ここはシーシャ・バーなのだ。
プレモルではないサントリーの生ビールを
追加して終了間際まで観戦し、
この夜も歩いてゴーイング・バック!

=つづく=

「萬福」
 京都府京都市下京区鶏鉾町474
 075-221-4712

「ZAM ZAM」
 京都府京都市中京区木屋町三条下ル材木町185-1
   075-201-6980

2024年6月14日金曜日

第3558話 気ままに京都 一人旅 (その5)

地下鉄烏丸線を鞍馬口で下車。
徒歩5分で御霊神社(上御霊社)に到着。
此処はかの応仁の乱の発祥地だ。
戦国時代の口火を切る応仁の乱は
御霊の森に陣を構えた畠山政長を
畠山義就が襲撃した御霊合戦が発端だった。

静かな境内を散策する間、誰にも会わない。
京都は伏見稲荷はじめ、
東本願寺や下鴨神社など参詣客でごった返す、
神社仏閣だらけだが、ここは静かなものだ。

臨済宗相国寺派の大本山、相国寺に移動。
さまざまな建物が林立して
どこが本堂なのか見当もつかない。
当寺には仏殿がないため、
仏殿を兼ねる法堂が本堂に当たるそうだ。

最盛時には京都の街のかなりの部分を
寺の所領としたが後年衰えを見せ、
殊に明治に入ってからの廃仏毀釈に
大打撃をこうむることとなった。

寺領の跡に建つ同志社大学、
隣りの同志社女子大学を横目に見つつ、
桝形出町商店街にやって来た。
前日の三条会商店街とは打って変わって
穏やかで平和な軒が連なる。
同じアーケードでずいぶん違うものだ。

感心したのは子育てに追われるツバメたち。
目当ての「満寿形屋」の隣りの「Meet Delica」。
肉の総菜屋はやってるのかやってないのか、
とにかくこの日はシャッターが降りており、
テントの中の巣に5羽の子ツバメが
黄色い口を開いていた。
可愛いねェ、好い商店街だねェ。

心和ませ、鯖寿司自慢の「満寿形屋」へ。
15分ほど並んでようやく入店。
看板に ”すし・めんるい” とある通り、
当店の名物は鯖寿司うどんセット(1100円)。
うどんをきつねにすると1300円。

名物をドライ中瓶とともにお願い。
「アテで~す!」
オバちゃんがサービスの突き出しをくれた。
おかかが掛かった焼き万願寺唐辛子と
珍しい鯖の真子の煮付けである。
鯖の子はかなりクセが強いが
ビールの合いの手に悪くなかった。

壁の短冊に水なすの漬物。
すかさず通すと、どんぶり鉢いっぱい。
パクパク食べる。

かけうどんには、きざみ青ねぎ・
とろろ昆布・ピンクの縁取りのかまぼこ。
柔いうどんが残念だけど、京都だからネ。
そのぶん穏やかな出汁に好感。

何と言っても主役は鯖寿司。
惜しげもなく使われた木ノ芽が
白板昆布の下に透けてシースルー。
これには敬服いたしやした。

=つづく=

「満寿形屋」
 京都府京都市上京区枡形通出町西入ル
 二神町179
 075-231-4209

2024年6月13日木曜日

第3557話 気ままに京都 一人旅 (その4)

四条通を渡り、西木屋町にやって来た。
「ラクダ」はとてつもなく見つけにくい。
高瀬川の右岸にあるが看板とも呼べない、
小さな立てパネルがあるのみだ。

2階に上がるとワインバーにしては明るい。
女性のツーオペだからかな?
チーフ・バーテンダレスが
ワインの好みを訊ねてくる。
ネッビオーロをお願いすると、
同じピエモンテのドルチェットを勧めてきた。
いいでしょう、いただきましょう。

銘柄はサン・フェレオーロ ’20。
ネッビオーロほどの深みはなくとも
味蕾にはしっかり寄り添った。
つまみは豚バラ肉のリエット。
こんなには要らないぜ、と思うほど
バゲットが5切れも付いてきた。

フェレオーロをもう1杯いただき、ビールへ。
サッポロ・エーデルピルスの生である。
グラスが小さく小ジョッキにも満たないので
何杯飲んだかな? 10杯くらいかな?

途中、妙齢のご婦人が来店し、隣りに着席。
北海道の恵庭からだと云う。
恵庭は札幌と千歳の間の千歳寄り。
仕事の関係で京都に来るたび、
「ラクダ」に立ち寄る古株だ。
楽しく語らい、気分よくグラスを重ねた。

時刻は23時。
19時からで4時間も居たことになる。
店は25時まで開いてるらしいが
そろそろおいとましよう。
この日も1時間ほど歩き、ホテルに帰った。

翌朝は喫茶店「六曜社」へ。
河原町三条の老舗は1950年創業。
もともと地下での営業だったが
’66年に1階の営業も始めた。

モーニングは厚焼きトースト・ゆで玉子・
野菜ジュース・アイスコーヒー。
自家製のドーナツが名代ながら
ドーナツを食べる習慣がないので見送る。

ごくフツーの朝食から
店の歴史はあまり伝わって来なかった。
前夜の酒のせいか、お冷やをガブガブ。
バイト(?)のコがひんぱんに注いでくれた。

今日の予定は高野川と合流する前の賀茂川右岸。
この川は合流して初めて鴨川を名乗る。
最初の目的地は御霊神社だ。
最寄りの鞍馬口までの行き方を
ママが丁寧に教えてくれる。

二人から老舗の親切心が
じゅうぶんに伝わりました。

=つづく=

「ワイン ラクダ」
 京都市京都府下京区西木屋町通四条下ル
 船頭町229 2F 
 075-344-6886

「六曜社」
 京都府京都市中京区河原町三条下ル
 大黒町36
 075-221-3820

2024年6月12日水曜日

第3556話 気ままに京都 一人旅 (その3)

寺町通の「スマート珈琲店」。
サッポロ赤星を飲みながら
朝日新聞を読みつつ、配膳を待った。
冷たいにんじんスープにミントの葉が1枚。
それはいいんだがクリーミーでちと重たい。

メインプレートはコロッケとポソテの脇に
千キャベ・ミニトマ・きゅうり・マカサラ。
マカロニは一般的な穴空きではなく、
ファルファッレ(蝶々)とフジッリ(ねじりん棒)。
パンはソフト&ハード・ロールにバターがたっぷり。

クリームコロッケは小海老入り。
柔らかい豚ロースにはトマトソース。
ナイフ&フォークを駆使して美味しくいただいた。
2700円を支払い、テクテクテク。

二条城から三条会商店街へ。
京都屈指のアーケードだが
とにかく困ったのはチャリンコの群れ。
けっこうなスピードでブンブン行き交う。
歩行者には危なくてしょうがない。
歩きスマホならぬ、走りスマホなんて狼藉者も。
アーケードをチャリで走りまくる蛮行が
どこの世界で許されんだヨ、馬鹿どもがっ!

100年の歴史を持ち、京都最大の長さ800m。
往復してみたが得るところ何もナシ。
閉じてるシャッターの数少なからず。
訪問を勧めるガイドブックもあるが行く価値ナシ。

四条烏丸へ戻る。
此処は銀座でいえば、四丁目の交差点。
いわゆる旧尾張町の交差点。
京都の街の中心、いわゆるヘソである。

錦市場を流し始めるも人、ひと、ヒト。
インバウンドが圧倒的に優勢だ。
まったくもって和が漢&洋に凌駕されておる。

京都の台所は昔の話でイートインがあふれ返る。
それも一番人気はカニカマの天ぷらと来たもんだ。
これじゃダメじゃん、京都に来る意味ないぜ!
利用は朝の早い時間に限ると誰か言ってた。
さもありなん。

新京極の「京極スタンド」へ。
大衆酒場というより大衆ビヤホールだ。
一番搾りの中ジョッキを通し、
壁の品書きを見上げていると、
隣りの爺さんが「これ、旨いヨ」と
自分のうにくらげを指さす。
こういうシチュエーションになったら
頼まざるを得ない。

あとはうざくをお願いすると、
うなぎの小片が2つに大量のきゅうりもみ。
東京のうざくの4~5倍はあった。
まっ、キューカンバーは好きだからいいがネ。
ジョッキをお替りし、かねて狙いの
ワインバーへと河岸を変えたのでした。

=つづく=

「スマート珈琲店」 
 京都府京都市中京区寺町通三条上ル
 天性寺前町537 
 075-231-6547

「京極スタンド」
 京都府京都市中京区新京極通四条上ル
 中之町546
 075-221-4156

2024年6月11日火曜日

第3555話 気ままに京都 一人旅 (その2)

京都先斗町の「すずめ」。
オネバ&オバさんのツーオペは
オネバが二代目女将だ。
ドライの中ジョッキにキメジ刺し、
いわゆるキハダマグロの幼魚を所望した。

先客は外国人カップル1組のみ。
言葉を交わせば2人ともロンドン出身。
若い頃2年ほど暮らしたロンドン。
自ずと会話が花咲じじい。

すると今度はアジア系が一人来店。
われわれの間に腰を下ろした。
話しかけたらテキサスから来た中国人。
ロンドン勢と英会話が始まり、
こちらは小休止と相成った。

中ジョッキをお替わりしたのち、
古都千年なる清酒に切り替え、2杯。
インバウンドは長居をしない。
彼らを見送り、当方も会計。
5千円とちょっとであった。

シャワーを浴び、TVも観ずに就寝。
翌朝は早く目覚める。
フロントで貰った界隈の地図に
近所の喫茶店を見つけて赴くと、
開店は1時間後の9時半。
待ってられやしない、都心に歩いた。

四条烏丸の「神乃珈琲」。
立て看板に3種あるモーニングのうち、
だし巻きサンド・セットに惹かれた。
ほかはトースト&ゆで玉子と
フレンチトーストがあり、みなサラダ付き。

迷わずだし巻きをアイスコーヒーでお願い。
サンドイッチ旨し、アイスコーヒーさらに旨し。
 冷コーや 舌にしみ入る 豆の味
てな感じ。
これならホットも好いだろうと
グアテマラの深煎りを追加してやはり上々。

ところがレジでカックン。
何のこたあない、
東京の銀座や目黒にも店舗があるんだとサ。
しかも親会社がドトールと来たもんだ。
まっ、旨けりゃいいんだがネ。

錦市場を流してから寺町通を北上。
あちこちフラフラして11時半にはランチ。
昭和7年創業「スマート珈琲店」は
喫茶もさることながらスマートランチが人気だ。

クリームコロッケ エビフライ ハンバーグ
ベジタブルオムレツ ポークソテー ポークカツ
チキンカツ チキングリル 本日の一品
 ライスorパン  2品選んで¥1500

ちなみに本日の一品はチキン胸肉のフリット。
赤星中瓶とコロッケ&ポソテを通した。
加えてウエイトレスおすすめ、
冷たいニンジンのスープも頼んじゃった。

=つづく=

「すずめ」
 京都府京都市中京区先斗町四条上がる15番ろうじ
 080-2111-9834

「神乃珈琲 京都」 
 京都府京都市中京区高倉通錦小路下ル帯屋町591
 075-241-3008

2024年6月10日月曜日

第3554話 気ままに京都 一人旅 (その1)

久方ぶりに京都へ気ままな一人旅。
宿は浄土真宗本願寺派の本山、西本願寺の隣り。
近いので京都駅から15分歩き、
チェックイン後、すぐに出掛けた。

この街は歩いてなんぼ。
歩かなければ魅力が身体に沁み込まない。
不健脚が来る場所ではないのだ。
五条通りを東に向かい、五条大橋。
まずは西詰の石像を拝む。

子どもの頃から牛若丸が大好きなJ.C.。
弁慶との相対図を眺めるのが
京都での慣習となっている。
漫画チックにデフォルメされてユーモラス。

橋は渡らず、鴨川の右岸沿い、
木屋町通りを北上してほどなく、
松原通りに差し掛かった。
かつての五条大路であり、
鴨川に架かる橋は五条松原橋と呼ばれ、
牛若vs弁慶の一騎打ちはこの橋上で競われた。
といっても作り話じゃ、どちらでも同じこと。

遅めの昼めしを軽く取ろうと到着した、
花見小路の一口餃子店は中休みの最中。
おかしいな、通し営業のハズなのにな。
昼は省略して、晩酌に切り替えちまおう。

17時過ぎにやって来たのは錦市場に近い、
富小路(とみのこうじ)のレトロな四富会館。
京都にはいくつか ”会館” と称する、
奇妙な建築物が存在し、一種の雑居スペース。
此処もその一つで代表格といえる。

一番奥のカジュアル割烹「てしま」に入店。
ワンオペの店主はかつて鮨職人で
瀬戸内海の豊島(てしま)出身である。
黒ラベル大瓶をお願いし、
品書きにぐじ一汐を見とめて訊ねた。
「頭(カシラ)付きありますか?」
「あります、あります」
京都ではイの一番に甘鯛である。

焼き上がるまで鯖寿し2カンと
菜っぱ(若い白菜)の炊いたんが麦酒の友。
京都のさばずしは大阪のバッテラと異なり、
厚い松前昆布を外してから食べるが
当店は白板昆布、いわゆるバッテラ昆布付き。
こちらが好みにつき、握った箸に力が入る。

京揚げと合わせた菜っぱも京都らしい一品だ。
カシラ付き赤甘鯛を美味しくいただき、
大瓶2本で切り上げ、お勘定は3300円也。

先斗町に流れ、狙い定めた割烹を訊ねるも
予約でいっぱい。
向かいに「すずめ」という居酒屋あり。
行き場を無くしたはぐれ雀にはもってこい。
引き戸を引きました。

=つづく=

「てしま」
 京都府京都市中京区富小路四条上ル四富会館
 050-5456-6548  

2024年6月7日金曜日

第3553話 痩せても枯れても桜海老

乗った池袋東口行きのバスはヒドい混雑。
こいつはアカンと、
巣鴨とげぬき地蔵入口で途中下車する。
地蔵通りに行きかけた足先を急遽変更。
巣鴨よりも出没率の低い大塚に向かった。

通りすがった巣鴨公園で脚が止まる。
園内の表示板に廃兵院跡とあった。
戦争によって身体に障害を負った兵士を
収容するのが廃兵院である。

日露戦争がもたらした傷病兵は13500人。
身寄りから救護を受けられない者を
収容する施設が廃兵院で
入院者は被服・煙草・菓子の支給を受け、
学術・刺繍・裁縫・彫刻・囲碁などを
修習しつつ、日々を送ったそうだ。

旧三業地を貫く三業地通りにやって来た。
14年ぶりに「小倉庵」の暖簾をくぐる。
近所にもう1軒「そば処 小倉庵」があり、
こちらも14年前に
かれいの煮付けで飲んだ記憶がある。
どう考えても無関係じゃなかろうが
詳細は判らない。

ビールはキリンラガー。
ん? ハマの弘明寺で飲んだのは
昔のラガーでキツかったがこれは飲みやすい。
昨年末に森下の洋食屋で飲んだのと一緒。
やはり同じラガーでも
東京と神奈川では製造が違うんだ。

つまみは三つ葉入り桜海老のかき揚げ。
450円と廉価なのに
サクサクっと美味いのなんのっ!
上等な釜揚げではなく、干し海老ながら
痩せても枯れても桜海老の端くれ、
恐れ入りやした、の逸品であった。

そば粉十割の生粉打ちと田舎はすでに売切れ。
通常のせいろを100円引きの小盛りでお願い。
ん? 旨いじゃないかー。
パスタのリングイネみたいにやや平打ちで
池之端の行きつけとはタイプが異なるが好きだ。
14年前も印象は好かったが、ここまでとはー。
小盛りを悔やんでもアフター・フェスティバル。

これにて日本そばの行きつけが3軒に増えた。
台東区・池之端「新ふじ」。
文京区・白山上「満寿美屋」。
豊島区・南大塚「小倉庵」。
一に「新ふじ」、二に「満寿美」、
三、四がなくて、五に「小倉庵」と来たもんだ。
ヘヘッ、たまりませんな。

「小倉庵」
 東京都豊島区南大塚1-42-8
 03-3941-8230

2024年6月6日木曜日

第3552話 初めてのお子様ランチ

生まれてこのかた、
お子様ランチというモノを
口にしたことが一度もない。
王子の頭上の飛鳥山、
行きつけの「豫園飯店」で
いつものようにビールを飲みながら
海老春巻をポリポリやっていた。

この日はずいぶん立て混んでおり、
話し相手の蘭チャンが
忙しそうにしているので手持無沙汰。
分厚い菜譜をパラパラやっていた。
ん? おこさまランチ(780円)が
あるじゃないの。

不図、ひらめいた。
此処であったが100年目、
食ってやろうじゃないの。
客が退けて席に来た彼女に
おそるおそるお伺いを立てると、
「なんでまたお子様ランチ?
 ホントに食べるの?」
「うん、食べる」
「物好きだわねェ」

気ごころが知れた店でないと、
こうはいかない。
しかもスタッフに仲良しがいないと、
こうもいかない。

2本目の中瓶を自分で冷蔵庫から取り出し、
自分で栓を抜いてトクトクトク。
ほどなくやって来ました、到着しました。
新幹線みたいな器に乗ってー。
「3番線、おあとに願いま~す!」ーてな感じ。

おっと、よくよく見たら新幹線じゃないヨ。
飛行機だヨ。
機体のあちこちにJALのロゴもバッチリ。
だけどずいぶん太ってるなァ。
ジャンボ機よりもデブだ。

内容は、乾焼蝦仁(エビチリ)3尾、
鳥唐揚げ2個、半炒飯(叉焼・玉子・ねぎ)、
オレンジ1/6カットと来たもんだ。
おもちゃの類いは付いていない。

エビをパクリ。
おや、けっこう辛いゾ、
子どもにダイジョブかァ?
唐揚げはフツーの旨さ。
炒飯は大人用と変わらずで
ケチャップやカレー粉なんぞ使っちゃいない。

「清湯があるとうれしいんだけどなァ」
「子どもはしょっぱいスープなんか
 飲まないのっ!」
「ハイ、判りました」
ギャフン、タハッ!

「豫園飯店」
 東京都北区滝野川2-7-15
 03-5394-9951

2024年6月5日水曜日

第3551話 小百合を3本 立て続け (その2)

中1日置いて翌々日、この日は2本観た。

「ガラスの中の少女」(1960 日活)
小百合の映画主演デビュー作。
この作品には度肝を抜かれた。
映画の冒頭でいきなり湖に
若い娘の溺死体が上がるのだ。
それが誰かは内緒にしておく。
映画の隠れた(ベツに隠れちゃいないが)、
主役は四ツ谷駅。
丸ノ内線の出口が何度も映る。
此処はJR駅の上に地下鉄駅があり、
順序が逆で渋谷駅と同じ造り。
どちらも ”谷” だから土地が低く、
地下を走る電車が地上に顔を出してしまう。
ヒドいのは別に撮った背景の前に
小百合と浜田が現れるシーンたびたび。
西武園の遊園地、隅田川の清洲橋、
浅草の仲見世、みんなバレバレで無茶苦茶。
1時間5分と超短く、良いのか悪いのか、
よく判らん映画でありました。

「青い山脈」(1963 日活)
石坂洋二郎の原作は何度も映画化されている。
この3作目も初作同様に大ヒットした。
♪ 若く明るい 歌声に
  雪崩は消える 花も咲く ♪
やっぱりこの主題歌がなけりゃ感じが出ない。
心配ご無用、ちゃんと歌われていた。
ただし、デュエットが神戸一郎&青山和子。
すでにスター歌手の神戸(かんべ)はともかく、
青山にとっては唯一のヒット曲、
「愛と死をみつめて」の2年も前。
まったく無名の時代である。
前作の舞台は静岡県・下田だったが
当作は滋賀県・彦根だ。
目を瞠ったのはタイトルバックに
名脇役三羽がらす、
小田政雄・清水将夫・三島雅夫と
三羽のマサオが順番にクレジットされた。
監督・西河克己のシャレた演出かな?
芦川いづみが担任の先生。
校医役の二谷英明が裕次郎だったら
一段と好いシャシンになったろう。
二谷もけして悪くはないけどネ。
芸者・梅太郎の南田洋子が何とも艶っぽい。
こんな芸者が居たら、初心(うぶ)なJ.C.も
芸者遊びに溺れるだろうな、きっとー。

この夕も晩酌は専大前の「魚勝」。
前々日の初回ですっかり気に入ってしまい、
早くも常連の仲間入りである。
マルエフ生中3杯に芋焼酎・白金の露を1杯。
つまみはまぐろの茎わさび和えのみ。

実は初回にうれしいことがあった。
このことについては後日、
何度かおジャマして本当の常連になってから
あらためて紹介したい。
大学の先輩ながら吉永殿にはハマらないため、
シアターに行く予定があまりないけれど、
時間を掛けておジャマしてゆきます。

「魚勝」
 東京都千代田区神田神保町2-4
 東京建物神保町ビルB1
 03-3221-0861

2024年6月4日火曜日

第3550話 小百合を3本 立て続け (その1)

おなじみ神保町シアターの新シリーズ、
「1960年代ー
 吉永小百合と私たちの青春」
さっそく立て続けに3本観たので
紹介しましょう。

「いつでも夢を」(1962 日活)
1962年のレコード大賞受賞曲、
「いつでも夢を」に基づいて
撮られた歌謡青春映画。
この年は歌謡曲のゴールデン・イヤーで
数々のヒット曲が生まれている。
まずはJ.C.の年間ベスト5をー。
① 赤いハンカチ 石原裕次郎
② 遠くへ行きたい ジェリー藤尾
③ 川は流れる 仲宗根美樹
④ 江梨子 橋幸夫
⑤ 寒い朝 吉永小百合
      和田弘とマヒナ・スターズ
次点:ふりむかないで  ザ・ピーナッツ
何といっても「赤いハンカチ」は
星の数ほどある裕次郎ナンバーのマイ・ベスト。
映画の「赤いハンカチ」も
「嵐を呼ぶ男」に続くセカンド・ベスト。
ちょいとばかり話が脇にそれました。
戻します。
さて、映画「いつでも夢を」。
デュエットの相方・橋幸夫が出演している。
小百合・浜田光夫と並んで主役が3人。
驚いたのは彼の演技力で
御三家を一緒に担う舟木一夫・西郷輝彦も
ずいぶん映画に出ているが
演技という点では橋が一番だろう。
もちろん歌も歌いまくる。
「潮来笠」、「おけさ唄えば」、
「北海の暴れん坊」、「若いやつ」と
歌い過ぎじゃないの? というくらい。
小百合も松原智恵子ほか、
クラスメートを引き連れて「寒い朝」を熱唱。
浜田光夫まで「街の並木路」と来たもんだ。
あんまり上手くないんだがネ。
彼らの棲む町は荒川沿いの右岸か左岸か不明だが
墨田区・八広か葛飾区・四ツ木と思われる。
だのに隅田川沿いのお化け煙突がたびたび映る。
荒川と隅田川がごちゃ混ぜだけれど、
こういうことは映画のお家芸みたいなもんだ。

終映後の晩酌は専大前「魚勝」を初めて訪れた。
散歩の途中に見つけ、利用しようと決めていた。
時刻は15時半、そう、15時開店がありがたい。
昼飲みに不自由する神保町にあって
この店の発見は大いなるものがあった。

アサヒマルエフ生・大関常温・黒霧島ロックを
まぐろぶつ・能登なまこ・かにみそとともに
味わって気に入って実に佳い店で
ブクロの「バッカス」とは大違い。
常連になること必至でありまする。

=つづく=

「立呑み 魚勝」
 東京都千代田区神田神保町2-4
 東京建物神保町ビルB1
 03-3221-0861

2024年6月3日月曜日

第3549話 チキンライスと海南鶏飯

神保町のメインストリート、
すずらん通りの1本裏筋に
「キッチンきらく」がある。
詳しくは存ぜぬが八丁堀の人気店、
「麺や 七彩」ゆかりの店だ。

映画の前に立ち寄り、チキンライスをー。
店先の立て看板に
”イギリスから渡来した「ピラウ」がルーツ”
この謳い文句にそそられた。
1階は当店特製のホットドッグみたいな
きらく焼きの売店にキャッシャーと厨房。
客席が2階の変わった造りだ。

サッポロ赤星とチキンライスを注文し、
2階に上がった。
4人掛け&2人掛けが1卓づつに
カウンター4席のみの小体なフロア。

細切りシナチクのオイル和えが
ビールのアテに付いて来た。
うん、オーソドックスなチキンライスだ。
鳥もも肉と玉ねぎがバターで炒まり、
ケチャップがライスに絡んでいる。
好きなタイプであった。

後日、海南鶏飯の「天鶏(テンチィ)」へ。
やはり映画の前である。
すずらん通りからちょいと入った場所にあり、
夜は焼き鳥専門店になる。

海南鶏飯は海南島由来のチキンライスだが
世界に広めたのはシンガポール人。
J.C.もシンガポール赴任時には
さんざお世話になった。

ライス少な目で通す。
鶏胸肉に繊キャベ・パクチー・レモン。
ソースは黒糖を感じるダークソースのみ。
チキンスープが付く。

う~ん、何だかなァ。
どちらかというと、タイのカオマンガイだネ。
シンガポールとタイのそれは似て非なるもの。
やはりシンガポールに一日の長あり。

当店のメニューはほかにガパオライス。
ハーフ&ハーフも可能だが
初回の印象がイマイチだったので
あれから訪れていない。

その点きらく焼きやチキンライス以外に
稲庭中華そば、カツカレーなど豊富に揃う、
「キッチンきらく」は常連になってしまった。
赤星だけでもイヤな顔をされないのが
心からありがたいんです。

「キッチンきらく」
 東京都千代田区神田神保町1-5
 080-7293-0731

「天鶏(テンチィ)」
 東京都千代田区神田神保町1-17-3
 電話:ナシ