2024年7月26日金曜日

第3588話 せっかくのエビス顔 また曇る

恵比寿「ル・リオン」のサラダはよかったが
いかんせんビールが飲みたい。
表のバス通りに出るとバスが停まった。
反射的に乗り込んだのは田町行きである。

よく立ち寄る駅前の立ち飲み酒場をガマンし、
三田から浅草線で一駅先の大門まで歩いた。
増上寺ではなく芝大神宮に一礼。
立派な神宮なのにいつも参拝客が少ない。
界隈をぶらぶらして大江戸線に乗った。

降りたのは新御徒町。
日本で二番目に古い(東京最古)、
佐竹商店街を流すも「白根屋」無きあと、
翼を休める店が無くなって淋しい。

プラタナスがパリのリュクサンブール公園を
連想させる西町公園のベンチで一休み。
すぐに立ち上がり、歩き始めた。
こんなことをしている場合じゃないんだ。
ガスの補給をせねばならない。

すると右手に「小倉庵」の袖看板が見えた。
最近は南大塚の「小倉庵」にハマり、
何度もおジャマしている。
同じ流れを汲む店に違いない。
よい機会とばかり、引き戸を引いた。

女将と思しき初老の女性が迎えてくれる。
「ビールの銘柄は何ですか?」
「生は無くてエビスなんですが・・・」
ガッビ~ン!

昼間のエビスはしょうがない。
何せ恵比寿の地元だからネ。
それが何でまた上野でエビスなんだ。
せっかくエビス顔になったのに
また曇っちゃったじゃないかー。
ビールでかつ煮を目論んでいたが断念。
もりそばをわびしく注文した。

太いのや細いのや不揃いのそばは二八そば。
コシがあり、香りも立ってなかなか。
さすが自家製粉だけのことはある。
辛口のつゆにも好感が持てた。
飲みものは冷水だけだけどネ。

会計時、女将さんに訊ねた。
「お店は古いんですか?」
「今年で55年目です」
「すごいなァ、ずっとこの場所で?」
「いえ、暖簾分けでー」
「じゃ、早稲田の山吹町から?」
「ええ、本店からですヨ」

都内に何軒かある「小倉庵」のルーツは
すべて早稲田の隣りの山吹町。
55年目だから54年前の1970年。
ん? 東京駅丸ノ内南口でお巡りに
職質を受けた年じゃないかー。

んん? J.C.が早稲田に入った年だヨ。
これを単なる偶然とは思えな・・・
いや、単なる偶然であろうヨ。
あの夏、巷には辺見マリ「経験」と
由紀さおり「手紙」が流れておりました。

「小倉庵」
 東京都台東区東上野3-6-6
 03-3832-7743