2011年7月21日木曜日

第101話 「美家古」は心の都なり (その2)

浅草は馬道の「弁天山美家古寿司」に来ている。
五代目親方の正面に居座り、江戸前鮨の真髄にふれているのだ。
当店はわが心の都、ここで江戸前の何たるかをたたき込まれた。

かんぱち・ひらまさ・ぶりの類いはあまり好まないが
縞あじとなるとハナシはベツ。
ましてや天然の縞あじにはめったにお目にかかれない。
まっこと、おいしゅうございました。

続いては、今まさに旬を迎えたきす。

わさびとともにおぼろが忍ばせてある

きすでん、春子でん、小肌でん、
小魚は皮目の美しさがイノチ、これぞ江戸前鮨の華である。
そして嗚呼、この美味さ、いったい何に例えたらよござんしょ。
こういう逸品に出会うと、
ただ刺身を酢めしに乗っけただけの生々しいにぎりなんぞ、
金輪際食べたくなくなるもんなァ。
ああいうのはにぎり鮨じゃないヨ。

お次は酢あじ。
酢と塩がいい塩梅で、もう生あじなんか食いたくねェ!
第2グループの3カンのあと、一服おいてひと休み。
しばし五代目と思い出バナシに咲かせたひと花。

さて第3の陣は必食の小肌から。
こやつに関してはあっちゃこっちゃでたびたび書きふれたので
あえてここでは語らず。
おあとは火の通し卓抜なる車海老、
そしてコンパクトでありながら身厚の赤貝だ。

身がハチ切れんばかり

赤貝はデカけりゃいいってもんじゃない。
サイズが大事なんです、サイズが!

第4の陣は蒸しあわび・赤身づけ・煮いか。
「美家古」の煮いかはまったくもって独特のモノ。
パキッとした歯ざわりが実に快適で
あわびの上をゆくから困ってしまう。
いや、何も困ることはない、ひたすらエンジョイすればよいのだ。

ここで2回目の小休止。
手を休めた親方とああでもない、こうでもないと言葉を交わしつつ、
頭の中では次は何で行こうか考えている。
最後の三連発の前に玉子をつまみでいただいた。

すり身入りの焼き玉子

33年前、初訪問の際、つけ台に落ち着くと、
目の前で四代目が玉子を焼いていたっけ。

締めはさらに必食、穴子の下半身と上半身を1カンずつ。
そしてアンコールの小肌におぼろをカマせてもらう。

沢煮の穴子の下半身

江戸前の穴子はプリプリでなくっちゃ。
口の中でトロける穴子なんぞ、足元にも及ばぬ。
ヤワい穴子はどこのどいつが始めたんだろうねェ。
離乳食じゃあるまいし、ったく!

大満足にほほをゆるめていると、
あらためてうら若き美女が名刺をくれた。
数年前に女将を亡くされたあと、
空席だったその座を二番目の娘さんが継がれたとのこと。
のち添えをもらわず、実の娘を女将に据えるなんて
なかなかに小粋な計らいじゃないですか。

わが心の都の末永き繁栄を祈りつつ、
夜の浅草に再び打って出た。
ほおずき市を訪れた人影も絶えて久しく、
月の光がいたずらに明るいばかりなり。

「弁天山美家古寿司」
 東京都台東区浅草2-1-16
 03-3844-0034