2011年7月14日木曜日

第96話 二晩続きのブイヤベース 古く良かりしニューヨーク Vol 2

なでしこジャパンが頑張るおかげで寝不足気味。
でも、こういうのはウェルカム、楽しいなァ。

さて、今から20年前のニューヨーク赴任時代、
「J.C.オカザワのれすとらんしったかぶり」なるコラムを
「読売アメリカ金曜版」に綴っていた。
そこから選んで紹介する”古く良かりしニューヨーク”シリーズ、
今日はその第2回をお送りしたい。

=二晩続きのブイヤベース=

サカナを好んで食べる国には必ず、
様々なサカナを放り込んだ寄せ鍋みたいな料理がある。
イタリアはカチュッコ、スペインがサルスエラ、
ベルギーならワーテルゾーイと、枚挙にいとまがない。
中でも王者の風格漂うのはフランスのブイヤベースであろう。


この料理は南仏のマルセイユが本場。
カサゴ・メバル・ヒメジ・ホウボウ、プリッとした白身魚が主役だ。
香りの決め手は高価なサフランで
ほかに香辛料は加えず、胡椒すら使わない。
最初にスープを楽しんだあと、
アイオリやルイユとともに海の幸を味わうのが正統的。


ところが先日、正統派ではないブイヤベースを
二晩続けて食べる破目に陥った。
ヴェルディの「シモン・ボッカネグラ」のプリシアターでのこと。
79丁目西222番地にあるから「Two Two Two」という、
きわめてお気楽なネーミングのフレンチアメリカンを訪れた。


マデイラ酒とバルサミコ酢の利いたフォワグラのラヴィオリが好印象。
さっとあぶったツナ(まぐろ)のタタキも質が高い。
そしてお待ちかねのブイヤベースだが
皿を満たすべきスープが見当たらず、
煮詰まったソースが底に溜まっている程度。
しかも具材がツナとサーモンときては二度だまされた気がしてくる。
こうした期待感の不完全燃焼は翌日まで尾を引くものだ。


次の夜、連夜の大盛況と呼び声高い「Jubilee」へ。
サットン・プレイス界隈には珍しい本格的なビストロである。
ここの名物は一にも二にもムール貝。
4種類の味付けから、一番シンプルな白ワイン蒸しを選ぶ。
ブイヤベースとかぶるようだが旨ければ構ったことじゃない。
主菜のステーキ・フリッツも鴨のオレンジ煮も上デキであった。


くだんのブイヤベースだが、まずスープがストックというより
スープ・ド・ポワソンに近い濃厚なもの。
旨味じゅうぶんにして、これはこれでよかった。
残念なのは白身に混じり、ここでもサーモンが使われていたこと。
シャケは石狩鍋だけでたくさんだヨ。
たっぷり入ったじゃが芋がポテト好きを喜ばせよう。


てなことでした。

10年前に一度だけブイヤベースを作ったことがある。
サカナは金目・皮はぎ・あんこう、貝はムール・はまぐり。
材料費は高かったが、やはり日本は食材が違う。
ニューヨークのレストランを凌駕する逸品に
ピエモンテの白ワイン、ガヴィ・ディ・ガヴィを合わせ、
シアワセな一夜を過ごしたのだった。
手間ヒマと金を惜しみなく注いだ、あんなマネはもう無理。
今となったら鱈ちりで大満足ですもの。

「Two Two Two」
 222W 79th st
 212-799-0400

「Jubilee」
 347E 54th st
 212-888-3569