2011年7月28日木曜日

第106話 串揚げに目覚めた日

串揚げと串かつ、この似て非なるものは
本来、前者が大阪、後者が東京を生誕の地とし、
なおかつホームグラウンドとして成長してきた。

串揚げと串かつの関係は
阪神タイガースと読売ジャイアンツのそれにも似ている。
少なくともJ.C.はそう信じて疑わない。
東京育ちに加えて長嶋茂雄が大好きだから
子どもの頃より串かつはよく食べてきた。
精肉店の揚げ物コーナーには必ずあったし、
酒をたしなむようになってからも
大衆酒場やビヤホールの定番メニューだった。

その反面、串揚げには見向きもしなかった。
というより昔は東京に串揚げなんかなかったのだ。
思い起こせば、1970年代になって
銀座の「五味八珍」、六本木の「南蛮亭」を訪れたのが
東京における串揚げの歴史の始まりだったような気がする。
印象はさして旨いものでもなく、
第一、15本もまとめて食べたら飽きちゃうよ。
ビールの友に串かつを2本、これが東京人の美学だ。

2002年7月13日土曜日、根津の「はん亭」に赴いた。
都内でもっとも有名な串揚げ専門店である。
立派な木造3階建ては大正6年築で亡きおふくろと同い歳。
創業が明治だから銀座と六本木の2店よりずっと古いが
まさかその時代から串揚げを商っていたのではあるまい。
調べてみたら案の定、往時は下駄の問屋さんだった。

珍しいサッポロ赤星ラガーと広島の純米吟醸・誠鏡とで
串を1ダースほど平らげて満悦。
串揚げがこんなに繊細なものとは知らなんだ。
目からうろこがポロリと落ちて
この日こそ串揚げに目覚めた日となったわけ。

過日、友人の招きにより「TSUKIJI はん亭」を初訪問。
新丸ビル店は本家の支店だが、こちらは暖簾分けとのこと。
店主は長年、根津で修業をした方で
さすがにやる事なす事、丁寧な仕事ぶりだ。

薬味・生野菜・お通し

当夜の飲みものは一番搾りの生、スーパードライの瓶、
そして赤ワインはオーガニックのサクラ・ナチュラ2006年。
スペイン産だがセパージュはテンプラニーリョではない。
味わいは予想以上で、串揚げとの相性もよし。

海老の大葉巻きと谷中生姜でスタート

続いて稚鮎と枝豆

あとは、きびなご・穴子・蓮根カレー詰め・小玉ねぎなどなど。
最後の4本が

いか&とびっ子と茄子肉詰め

アピオスと牛肉ごぼう

食べ終えて痛感した。
東の串かつ、西の串揚げというくくりは早計で
江戸の天ぷら、上方の串揚げというのが正しい。
「わてらの串揚げ、串かつと一緒にされたらかないまへんえ」
浪花っ子のボヤきが聞こえてきそうだ。

「TSUKIJI はん亭」
 東京都中央区銀座8-18-4 銀座フォルム21-B1
 03-3547-1601