2011年9月1日木曜日

第131話 鮨屋は二十歳になってから (その1)

もう何年も前に、とある鮨屋にて
と、こう書き始めると、
「最近、昔バナシが多いんじゃないの?」―
親切にもたしなめてくれるありがたい友人が何人かいる。
彼らの友情にはつい目ガシラが熱くなり、
不覚にも落涙を見ることさえあり・・・
んなワケねェだろ! フン、ほっとけや!

憎まれ口はほどほどに、その、何年も前のことである。
今じゃ、ふるさとのみちのくに帰ってしまった弟分が言った。
「鮨屋で鮨を食うときの順番ってのはあるのかね?」
「そりゃ、あるに決まってるだろ」
「ぜひ、お聞かせ願いたい」
「まっ、オレたちみたいな酒飲みはまずちょこっとつまむわな」
「いきなりにぎりってのも何だしネ」
「そんとき、あとでにぎってもらう鮨種と
 なるべく重複しないように頼むんだ、殊にまぐろはイカん!」
「例えば?」
「そうネ、皮切りは旬の白身なんかいいんじゃないの。
 定番は夏場の真子がれい、冬場の寒平目ってとこだな。
 イカした店なら夏のコチやキス、冬の皮ハギなんざ最高だ」
「鯛はどうなの?」
「真鯛は春がいい、皮目を湯通しした松皮造りが特にいい。
 いずれにしろ、つまみはあんまりバクバク食わないほうがいい。
 生モノを避けて蛸の桜煮とか蒸しあわびとか・・・。
 蝦蛄やはまぐりもつまみのほうが旨いと思う」

なおも会話は続く。
「にぎりは好きなモンを好きな順に好きなだけ食えばいいのね?」
「そういう人もいるな、いや、そんな輩のほうが多いか」
「そういやあ、兄貴の場合はいつも大体、順番決めてるよね?」
「ああ、白身→ひかりモノ→イカか貝→あったら海老→
 まぐろ系→煮モノ→玉子で、巻きモノは食べたり食べなかったり」
以前、だしぬけに中とろを頼んだこの弟分をたしなめたことがあった。

「この間、ウチの近所の鮨屋で、そこそこの値段取る店なんだけど、
 小学生のガキが『大とろ、サビ利かして!』なんてホザきやがって」
「そりゃガキもガキだが、親がヒドいネ、
 おおかた小金持ちのバカ社長だろうよ」
「それが都心の都銀の支店長」
「ヘッ、どこで誰に出くわすか判らんのに脇の甘い支店長だこと。
 第一そのガキ、将来ロクなモンにならんぜ」
とまあ、そんなこんなで話題は不振の読売巨人軍に移行した。

ちょうど一ヶ月前に書店で買った「週刊現代」のコラム、
伊集院静サンの「それがどうした」でわが意を得たり。
数年前に弟分と鮨屋で交わした会話がよみがえった。
作者にも講談社にも無断ながら、少々引用させていただく。

鮨屋に平気で子供を入れ、平然と鮨を握る店や職人がいる。
呆れはてる。

と、ここまで書いて本日の紙面が尽きた、以下次話。

=つづく=