2011年11月21日月曜日

第188話 燗酒にあさり汁

久方ぶりに不忍池のほとりをそぞろ歩いた。
今年もまた渡り来た鳥の数少なからず。
ユリカモメ・オナガガモ・キンクロハジロ、
我を張るものとてなく、お互い干渉し合わずに
”共存共泳”している姿が実に微笑ましい。

憩いを求めて訪れた人々が与えるパンくずに群がるのは
おおかたカモメとカモと池の鯉。
警戒心が強いのかキンクロはあまり岸辺に近づかない。
キンクロの人に媚びない性格が犬より猫的で好きだ。

池畔の桜が紅葉し、散り始めている。
葉に緑をとどめているのは柳。
柳の木の下に野田、もとい、ドジョウならぬマゴイの群れが
一様に口を大きく開いてエサをねだっている。
「悪いなァ、オマエたちの食いもんは持ってないんだよ」―
なおもパクパクやりやがって聞き分けのない鯉どもだ。

散策の後、上野公園に近いマーケットに立ち寄った。
当夜はTVのスポーツ中継が多く、晩酌は自宅と決めていた。
肴は小肌の酢洗いが第一候補なれど、
並んでいるのはサイズがデカすぎて、これじゃ巨肌だヨ。
〆さばはそれほど好まないし、
生あじをこれから自分で〆るのは面倒くさい。
となれば白身のヒラメか赤身のマグロかな?

結局、身が肉割れしたミナミマグロの赤身を買った。
マグロの赤身はホンにせよ、ミナミにせよ、バチにせよ、
ちょっと見、肌に肉割れのあるものが旨い。
長い経験からの体得で、サカナの目利きはまことに重要。

赤身をカゴに放り込んだあと、小さな貝に目がとまった。
看過できないほどに器量よしだったのはアサリだ。

貝殻の模様が多彩にして鮮やか

われわれクラスともなると目利きはサカナに限らない。
貝でもタコでもカニでも魚介全般にわたる。

それでは写真のアサリのどこがよいのか?
ポイントは殻の模様だ。
白黒のコントラストがハッキリしているほど食味がよい。
全体にグレーがかっているのは泥臭い。

アサリの貝殻は保護色になっており、
砂地にいるのはご覧のように鮮やかな色合いをしている。
逆に泥地にいるのはどうしても黒ずんだりグレーだったり。

砂抜きして信州味噌で濃い目の味噌汁に仕立て上げ、
菊正宗・上撰の上燗とともに味わった。
ちなみに上燗はぬる燗と熱燗の中間だ。
はたしてアサリと燗酒の相性のよさはマグロを凌駕した。
江戸の町民はシジミ汁で一杯やったと伝え聞くが
アサリ汁もまた、よき酒の友になってくれたのである。