2011年11月22日火曜日

第189話 愛猫プッチ 失踪す!(その1)

かれこれ1ヶ月近くも前の事件。
10月も下旬のことであった。
その夜はやけに生暖かく、
エアコンをオンにすべきか迷っていた。

思案の末、玄関のドアにサンダルを片方はさみ、
ベランダのガラス戸を20センチほど開けて
そよそよと風を通すことにした。

とっぷりと日が暮れ、
どこからか秋刀魚を焼く匂いが漂ってくる。
焼き立てに酢橘(すだち)を搾り、
おろしと一緒にやったら、さぞや旨かろう。
秋刀魚は食いたし、焼くのは煩わし。
18時過ぎ、普段よりやや遅めの晩酌をスタートした。

「おうっ、今日も元気だ、麦酒が旨い!」―
一人ごちて冷奴に箸をつける。
木綿豆腐の上にはきざんだ大葉と長ねぎにおろし生姜。
タラリ垂らした醤油は
キッコーマンの本醸造・特選丸大豆しょうゆ。
いつの頃だったか、ヤマサをキッコーマンに切り替えた。

やりいかと水だこの刺身にはおろし立ての本わさび。
削り節を振りかけた茹で隠元。
甘辛く煮つけた油揚げ。
砂肝と長ねぎのニンニク炒め。
ヤッコのほかは、そんなもんが食卓に並んでいる。
刺身以外はすべて自分で作った。

刺身と隠元はビール、
油揚げと砂肝は赤ワインの合いの手とする。
その夜の赤はピエモンテのバルベーラ・ダスティ。
ネッビオーロほどの凄みはないが
バルベーラは和食にシックリとなじむ。

夜も更けてふと気がつくと愛猫プッチの姿が見えない。
名前を呼んでもノー・リプライ。
ときどきあることだからさほど気にもとめず、
のんきに浅田次郎の小説を読んでいた。

時間だけが過ぎゆきて気がつけば夜中の1時半。
さすがに少々心配になってきた。
最後に姿を確認したのは5時間ほど前か?
かくなるうえは夜中の大捜査線である。

狭い家中を捜し回ってみたものの、
影も形もないじゃないのっ!
こうなりゃ決め手の必殺技だ。
キッチンでヤツの好物、ツナ缶のプルトップを引き抜いてみた。
この音を聞きつけると、どこにいようがすっ飛んで来るからネ。

ところがどっこい、最初の1缶にゃまったく反応ナシ。
仕方なく家のあちこちで計3缶も開けちまった。
したっけ、ウンともスンとも言わんじゃないのっ!
ことここに至り、さしものJ.C.、色を失った。
いや、参ったなァ、参ったサンは成田山である。

=つづく=