2012年3月26日月曜日

第280話 日曜日の連雀町 (その1)

3月21日、全国に先がけて桜(ソメイヨシノ)が高知で開花した。
東京の開花予想は30日だという。
この週末は暖かかったが
本当にあと4日やそこいらで桜が咲くのかネ。

日曜の朝、ちょいと早めに起き出し、
TVの将棋番組をあきらめて散歩に出掛けた。
年明け以降の3ヶ月というもの、
寒い日が続いたせいもあり、歩行不足もいいところ。
歩くこと以外に運動をまったくしないわが身、
散歩は唯一の生命線でこれを怠るとイマイチ調子が出ない。

九段下から靖国神社、千鳥ヶ淵を散策。
濠端の桜のつぼみはふくらみを見せているが
すぐにほころぶという感じではない。
九段下に舞い戻り、
昭和館で60年も前の映画館用ニュースを何本か観る。
第二次鳩山内閣だの、南極越冬隊などの映像が映し出された。

神保町を経て水道橋に差し掛かったとき、空腹感に見舞われる。
時計を見ると、もう11時過ぎだ。
はて、どうしたものか。
近所のカレー店「メーヤウ」に向かったが日曜はお休み。
カレーにフラれた途端、なぜか日本そばが食べたくなった。
べつにカレー南蛮を連想したわけでもないんだが・・・。

日曜日に開けている真っ当なそば屋は
「かんだやぶそば」くらいしか思い浮かばない。
ちょいと距離があるけれど、歩きついでだ、ここに決めた。
戦災を免れた旧連雀町には「やぶそば」のほか、
同じく日本そば「まつや」、鳥鍋「ぼたん」、
あんこう「いせ源」、甘味「竹むら」と
何軒かの老舗が古く良かりしたたずまいを見せている。
洋食の「松栄亭」にも指を折りたいところなれど、
モダンなビルに建替えられてしまい、往時の面影はない。

到着するとすでに順番待ちの3人連れが店先に。
さいわい奥の小テーブルが1つ空いており、すぐに通された。
隣りのテーブルではカップルがビールを飲んでいる。
同時に「しまった!」と、後悔の念が脳裏を襲った。
「ここはエビスしか置かないのだった」―このことである。
よりによって生・大瓶・小瓶、すべてエビスのみ。
淡白なそばや鮨にエビスはあまりに重過ぎる。
サッポロに固執するのなら黒ラベルを併用してほしい。

土曜の晩に深酒をしており、
ここでいきなり菊正宗というわけにもいかない。
仕方なく瓶ほどアクが強くない生を所望する。
能書きを言うわりにはこれを3杯も飲んじゃったから
結果としてずいぶんエビスのお世話になってしまった。

=つづく=