2012年3月27日火曜日

第281話 日曜日の連雀町 (その2)

日曜の、それも正午前だというのに
「かんだやぶそば」の店内は超満員である。
運よく待たずに座れたが入店後、ものの10分と経たぬうちに
あれよ、あれよと行列の尾は長くなるばかり。
これには相撲協会もあやかりたかろう。
連雀町で日曜に開けている優良店は
ほかに「神田志乃多゛寿司」と「近江屋洋菓子店」くらいのもの。
人々が集まり来るのは当然の成り行きであろう。

仕方なく頼んだ(シツコいねェ)エビスの生。
サイズはビヤホールでいう生中と生小の中間くらい、
いや、限りなく生小に近いかな。
これで600円だから、すでに町場のそば屋の値付けではない。
ビールのグラスとともにそば味噌が運ばれた。
通常はこれが出た時点で菊正が欲しくなるところ、
前の晩の酒が少々残っており見送った。

ビールの友はあい焼きである。
「かんだやぶ」でコイツを頼まなかったことはない。
自身の脂でジリジリ焼かれた胸肉もさることながら
脂を吸った相方の長ねぎがその上をゆく。
世の中には鴨より旨いねぎがある。
添えられた粗塩でいただき、何の不満もないけれど、
先刻のそば味噌をチョコンと乗せて口元に運べば、
舌先が敏感に反応してほほが緩むという寸法だ。

品書きに”スープも楽しめ”とあった、あさり酒蒸しを追加する。
小鍋仕立てというにはやや大ぶりの土鍋で供された。
お運びの女性に蒸気抜きの小穴が吹き出したら
ちょうど食べ頃と仰せつかる。
途中、フタを開けてはなりませぬとも―。

でも彼女が去ったあと開けちゃったモンね。
中では大粒のあさりが20粒ほど肩を寄せ合って健気だ。
助っ人役のだし昆布が2片同居している。
この一品もまた、主役の貝自身より染み出ただしが上手かも・・・。

肝心のそばは今が季節の2品をお願いした。
最初は若筍そばだ。
香りと歯ざわりがまことにすばらしく、
バランスのとれたつゆとその熱いつゆにもヘタらないそば、
脇のわかめも一役買い、おもむろにツルツルとやったら
耳鼻咽喉、そのすべてが揃って狂喜するではないか。

続いて白魚の天ぷら&せいろである。
胡麻油が主張する白魚はいかだに揚げられ、
他店にありがちなバラ揚げよりもずっとよい。
パクリとやれば、サックリのホッコリに思わずニッコリである。

ほんのりと緑がかったそばの色をあえて表現するなら利休鼠。
千利休が好み、「城ヶ島の雨」にも歌われたあの利休鼠だ。
歯ざわりより舌ざわりを重視したものか
食感はふんわりとしてシコシコ感には乏しい。
近くの「まつや」、あるいは「室町砂場」とはまったく異なるものの、
これはこれで悪くはなく、むしろほどよい甘みを備えたつゆの旨さが
店の特性をつまびらかにしている。

「かんだやぶそば」
 東京都千代田区神田淡路町2-10
 03-3251-0287