2012年4月11日水曜日

第292話 かつては花街だった町 (その1)

昨日まで3話にわたって紹介した大島界隈だが
いまだに東部戦線の”酒池”を遊泳している。
もちろん日をあらためてのハナシですけどネ。

JR総武線・亀戸と新小岩の間に平井という駅がある。
東京都民にもあまり知られていないハズだ。
たとえ名前に聞き覚えがあったとしても
駅に降り立ち、町を歩いた経験のある人は少ないだろう。

かつて平井には亀戸・新小岩同様に花街があった。
関東大震災で被災した浅草十二階下の銘酒街が
亀戸や平井に移転して来たからだ。
昭和の初めには小松川三業なる株式会社まで設立され、
隆盛を極めた時代があった。
大戦の空襲によって灰塵と化したが昭和25年頃には復興し、
売春禁止法が施行されるまでにぎわいを見せた。
昭和33年以降は他の紅燈街と一蓮托生、衰退の一途をたどり、
男たちを呼び寄せた”肉林”は消滅してしまう。

ある日、ふと思い立って平井の町を歩いてみたくなった。
かく書き進めているJ.C.自身が
ほとんどこの地を知っちゃいないのだから
踏破してみる気になったのだ。
平井を訪れたことはホンの数回。
よくぞこの町にこんなフレンチがと、
人々を驚かせてやまないレストラン「コバヤシ」に何回か。
あとは友人のマンション探しにつき合って
ほうぼう見て回ったあと、今は無き「平井食堂」で
旨くもない昼めしを一度食べただけだ。
もっとも友人が棲んだのは総武線のもっと先、
千葉県の市川だったけどネ。

平井駅南口を出てすぐに一筋の通りを右折した。
3分ほど歩くと往時の面影を今にとどめる、
「和食からさわ」が右手に現れた。
かつての栄光はどこへやら、佇まいにわびしさが漂う。
廉価に設定した晩酌セットなども用意され、
集客に苦労している様子がしのばれる。

そのまましばらく進むと風格ある「料亭 まじま」の前に出た。
こちらも現役の料理屋だが商いの実情はどうであろうか。
推察するにけっして芳しいものではなかろう。
昨日今日、社会人になった若者ならいざしらず、
多少なりとも人生経験を積んだオトコとオンナならば、
こういう場所で合コンとシャレ込んでほしいものだ。

「まじま」の向かいに「松ちゃん」があった。
平井で一番の人気を誇る居酒屋である。
白状すると、当夜はこの店が目当てだったのだ。

=つづく=