2012年4月12日木曜日

第293話 かつては花街だった町 (その2)

平井が花街だった頃の風情が残留する一郭に来ている。
実は町で人気の居酒屋「松ちゃん」を訪ね、
たまたま脂粉の残り香を嗅ぐ機会に恵まれたのだった。
色街には独特の匂いがあって
登楼などせずとも(今となっては見果てぬ夢)、
その空間に身を置くだけで
胸の奥に温かいものが湧きおこる思いがするのである。
不思議だ。

「松ちゃん」ではビールで軽くのどをうるおしたあと、
サッポロが輸入販売しているイタリア中部の赤ワイン、
パッシオーネの1/2ボトルをやった。
ワインの友にはおまかせ5本の焼きとんをお願いする。
陣容はタン・ハツ・カシラ・シロ・ナンコツ。
レバーの不在が淋しい、いや、悲しい。
とは言え、焼きとん専門店には及ばぬものの、
そこそこの素材に、まずまずの焼き上がりだ。
350円の安さに惹かれて注文した中とろ刺しは値段相応。
スジっぽくてあまり感心しないのは致し方なし。

ひっきりなしにやって来るフリの客が満席で断られている。
J.C.が入店したのは18時15分前後。
おそらくカウンターに残った最後の1席だったらしい。
入れ込みの広い座敷がある大箱なのに
すべてが埋まってしまうほどの人気店なのだ。
何となくムラッ気が起こって
つい、2週間先の予約を入れてしまった。
幹事を引き受けた飲み会の会場が未定だったのでネ。

そして2週間後。
飲み会があるたびに零次会を敢行する、
K吾&K子の熟年カップルと早めに落ち合った。
行った先は「きんめ家」という大衆割烹風の店。
前回の散策の際に見つけておいたのである。
そのとき店先に出た看板の案内に惹かれたのだった。
主力商品の金目鯛は銚子の外川港に揚がったもの。
銚子は金目の北限で脂のノリが違うのだそうだ。

目当ての金目をさっそくお願いすると
本日は入荷ナシのつれない応答。
おい、おい、「きんめ家」に金目がないってことは
クリープのないコーヒー、あいや、紐の切れた越中ふんどし、
はたまた、柄の折れた肥びしゃくみたいなもんじゃないか!
金目に期待をかけすぎたのが裏目に出た恰好となった。

気を取り直し、もうひとつの店の名物、
銚子の伊達巻を所望した。
それに加えて今が季節のふきのとう天ぷらだ。
ふきのとうは春のそよ風に乗ったがごとく軽やかに美味。
こいつは塩でやるのが一番だろう。

変り種は伊達巻のほうである。
木だか竹だかを軸にして焼き上げた、
巨大な伊達巻を包丁で切り分けて出してくる。
小ぶりのバームクーヘンを想像してもらえると伝わりやすいかな。

こうして小1時間を過ごし、
平井駅前に参集した他メンバーを電話誘導し、
3人は一次会会場の「松ちゃん」へ向かったのだった。

=つづく=

「きんめ家」
 東京都江戸川区平井3-24-19
 03-5626-3210