2012年4月24日火曜日

第301話 うなぎ屋の嘆き

アンギラ・ジャポニカこと、日本うなぎの稚魚が高騰している。
いわゆるシラスウナギのことだが
香港からの輸入量が激減しているのだ。
もともとシラスウナギは台湾の産。
資源保護を理由に台湾政府が輸出を禁止したものの、
そこは金のなる木、台湾から不正に持ち出され、
香港を経由して日本に入ってくるのだという。

ただでさえうなぎは庶民にとって高嶺の花。
それが今では高嶺の花どころか高山植物並みになってしまった。
普通の日本人は斎藤茂吉や正岡子規のように
そうしょっちゅう食べたがらないけれど、
三月か半年に一度くらいは口にしたいと思うもの。
ましてや資源が枯渇していって絶滅のおそれまであるんじゃ、
なおさらにそう願うのも人情だろう。

実に久しぶりにうなぎ屋を訪れた。
最後に食べたのは去年の暮れの浅草「小柳」。
ほぼ4ヶ月ぶりになる。
出向いたのは谷中・善光寺坂にある「丸井」。
平日の昼に暖簾をくぐると小上がりに腰掛けた女将さんが
人懐こい笑顔を見せてくれた。
ほかにお客はいない。

さっそく品書きを見ると、
うな重(中)・・2300円 (特)・・2600円 (特上)・・3300円
けっこうなお値段である。
数字の上にポストイットが貼ってあり、
ちょいとめくってみたら
一律300円の値上げになっていることが判明した。
ほかには親子重・とり重の(並)が700円、(上)は800円。
ハーフ&ハーフなのだろう、うなとり重というのが1400円。
蒲焼きは重箱の200円引きとなる。

うな重(中)と肝吸い(300円)をお願いすると
「すみません、吸い物は仕込んでないんです」―これじゃダメじゃん。
肝焼きはなくとも肝吸いのないうなぎ屋は初めてだ。
何年か前にこの店に来たとき、そんなことはなかった。

15分と少々で運ばれたお重に箸を入れるがパッとしない。
粉山椒を振ってもう一箸、まあ、こんなものかな。
肝吸いナシでは食べるほうも張り合いが湧かない。
実は「小柳」でも思ったのだが
なんかうなぎに魅力を感じなくなった今日この頃。
脇の新香はきゅうりのぬか漬に奈良漬とたくあん。
きゅうりはよいが、ほかはヤケに甘じょっぱい。

話好きの女将さん、そう、前回もこの人と話したっけ。
確か娘さんが浅草橋の和菓子屋に嫁いでいるハズ。
それはともかく近頃お客が激減してしまったとのこと。
シラスウナギの激減が客の激減に通じている。
「来やしませんよ、高いんですもん」―あきらめ顔はため息交じり。
それもそうだよ、千円も出せば豪勢な焼き鳥丼が食べられるのだ。
親子重やとり重を用意していても
そのために客がうなぎ屋には来ることはないだろう。

うなぎ屋がどんどん店をたたみ、
代わりに焼き鳥屋がジャンジャン生まれるご時世。
うなぎよ、うなぎ、
お前たちゃいったいどこに雲隠れしちまったんだい?
そう遠くない将来、
うなぎ屋もどぜう屋が来た道をたどるんだろうか。
ぼんやりとした不安、芥川の心境が判るような気がする。

PS
24日(火)アップの当稿を書き終えて現在21日(土)の午前1時。
週末に東京を留守にするので書き溜めたところだ。
講談社から「FRIDAY」が届いているハズ、
そう思いつきメールボックスからピックアップしたらば、
何と「ウナギ養殖の画期的技術」なる記事が目に飛び込んできた。
まだ読み終えてないが、どうやら朗報らしい。

「丸井」
 東京都台東区谷中1-4-2
 03-3821-3574