2014年10月17日金曜日

第949話 観音に 裏があるなら 下もある (その5)

弘明寺の「廣州亭」でビールを飲みながら
料理の出来上がりを待っている。
ふと気がつけば悩みでもあるのか、
接客担当の店主が思案にくれていた。
にわか仕立ての考える人
「開業は何年くらい前ですか?」―声を掛けてみた。
「親の代からだから戦前ですねェ」―ハッキリとしたことは判らない様子だ。
「オヤジさんが二代目ってこと?」―なおも踏み込むと、
「ええ、でもアタシで終わりかな?」―笑いに悲哀がにじんでいた。

いかにも手造りといった風の焼売が運ばれた。
ゴツゴツとしていて肉々しい  
もうちょいと、つなぎとしての片栗粉や
玉ねぎが主張するタイプが好みなんだがなァ。
味にインパクト薄く、添えられた辛子だけではもの足りない。
そこで酢・醤油・辣油の助けを借りた。

サンマーメンは小ぶりのドンブリで登場。
 これで400円は大バーゲン
具の野菜炒めにトロみがかかり、典型的なサンマー・スタイル。
ストレートで色白な麺は横浜中華街における主流タイプだ。
しかし、シウマイ同様、どことなくパンチ力不足。
相方が酢を掛けたいと言うので、ご自由にどうぞ!である。

料理に特筆すべき点はまったくないものの、好きだなこういう店。
この古き良き空間に身を置けただけでもシアワセだった。 
 客層も年配者ばかり
会計を済ませて外へ。
目の前に懐旧の情を誘う「ジャーマン・ベーカリー」があった。
P子はしきりにホットケーキを食べたがる。
しかし、そんなものは間髪入れずに冷たく却下だ。

駅へ戻る道すがら、弘明寺観音に立ち寄った。
この寺は瑞應山蓮華院と号し、
実に1300年の歴史を有する横浜市内最古の寺院。
見たところ、それほどの古刹(こさつ)とも思えぬが、
やはり名刹なのであろう、端正なたたずまいを見せていた。
相方もお気に召したようだ。
仁王門から本堂へつづく階段
二人、手を合わせたら
観音下から坂を登り、京急の駅に舞い戻った。
ここから河岸を代えて、本格的な酒交が始まる気配なり。

=おしまい=

 「廣州亭」
 神奈川県横浜市南区大橋町3-66
 045-731-391