2014年10月27日月曜日

第955話 よこはま・たそがれ 酒場のはしご (その6)

「岩亀楼」の亀遊の亡霊に
誘い込まれるようにしてやってきた岩亀横丁。
それにしても「岩亀楼」の遊女で亀遊というのは
ちょいと出来すぎの感、無きにしも非ず。

横丁に入ってすぐ、目を惹かれたのは1軒のパン屋だった。
これが何とも言えず、よかたたずまい。
まずはご覧くだされ。
その名も「開勢堂ベーカリー」
”開く勢い”とはいかにも文明開化の発祥地、横浜ならではだ。
J.C.はこういう店舗にきわめて弱い。
パリの街角にありそうな、
オサレなブーランジェリーなんぞには目もくれないのに
とろとろレトロのパン屋にはコロリとやられてしまう。
ハハ、誰しも弱点はあるもんでごわす。

店先に設置されたITOENの自販機に鼻白むが
これはこれで新旧を際立たせる効果的装置と言えなくもない。
むろんのこと、看過すること能わず立ち寄った。
ツレのP子もこういう店は大好きなのだ。

結局は薬局、「開勢堂」ではいつ食べるあてもなく、
とんかつドッグとメンチカツバーガーを購入。
見た目、かなり美味しそうだったし・・・。

それにしても岩亀横丁に漂い流れる寂れ感はどうしたものか?
かつて栄えたこの通りは
完全に終わっちゃいないけど、ほとんど終わってる。
すでにシャッターを下ろした飲食店、ビジネスホテルが軒並みだ。
そんななかで目当ての「常盤木」が暖簾を掲げていた。
ココも「みのかん」同様、市民酒場を自称している。

ここでふと思い当たったが横浜に市民酒場があるのに
なぜ東京に都民酒場や区民酒場がないのだろう?
べつに都や区の行政が阻止してるわけじゃなし、
誰か”都民酒場”を開店してくれないものかいな。

「常盤木」は開店後間もないせいか先客ゼロ。
横浜らしくビールはキリンのみで大瓶をもらう。
相方はビールに飽きた様子、梅酒ソーダを注文している。
突き出しはワカメ刺し
店の切盛りは家族3人。
三代目夫婦に、どちらの実母か訊きあぐねたが
二代目の未亡人の大女将という顔ぶれだ。
ただし、入店したときから
肩透かしを食らったような違和感がつきまとっていた。

=つづく=