2014年10月30日木曜日

第958話 よこはま・たそがれ 酒場のはしご (その9)

「市民酒場 常盤木」で”巨肌”の”暴巨”を許し、
寛容に支払いを済ませ、夜の岩亀横丁を往く。
開いている店舗が少ないせいか、
あたりには暗い空気が流れている。
とても往時、盛りに盛った道筋とは思えない。

短い横丁につき、ほどなく大通りに出た。
京浜国道は第一も第二も横浜で終わりだから
以降はおそらく横浜街道であろうヨ。
北へ上るか、南へ下るか、行く先は二つに一つ。
ここは一番、野毛や関内が控える南に向かって歩く。

JR京浜東北線・桜木町駅前に来たとき、相方がつぶやいた。
「さっきのパン、食べたいな」―岩亀横丁の「開勢堂」で買った、
とんかつドッグとメンチカツバーガーのことである。
野毛の飲み屋街に廻る心積もりではいたが
ふむ、その手があったか・・・悪くはないな。

ここでJ.C.、思いをめぐらす。
山下公園は遠すぎるが
横浜港に注ぐ大岡川の河口に近い弁天橋の下には確か、
川に向かってベンチが並んでいたハズ。
行ってみたら案の定、ありました、ありました。

橋のたもとのコンビニで缶ビール、赤ワイン、チーズを調達し、
並んでいたベンチの一つに二人は並んだ。
大岡川の川面は暗く、その先の横浜港はもっと暗かった。

 ♪  いとしいひと あなたはいま 
   名前さえ告げずに 海にかえるの 
   白い霧に 目かくしされ 
   遠い船の汽笛 ぼくは聴いてる 
   かりそめの 恋をさけんだけれど 
   あふれくる 涙 涙 涙 
   切れたテープ 足にからめ 
   あなたの影を追う 暗い港  ♪
      (作詞:なかにし礼)

キングトーンズが歌った「暗い港のブルース」は1971年4月のリリース。
詞・曲(早川博二)ともにずばらしく、日本歌謡史に輝くブルースである。

当時、19歳のJ.C.は初めての海外旅行の途中。
ソ連・北欧からドイツを経て
イタリア・スイス・フランス・スペイン辺りをさまよっていた。
ただし、常に頭の中を駆け巡っていたのは
出発直前の3月下旬に観た米映画、「ある愛の詩」のテーマ曲。
フランスでもミレイユ・マチュウの歌唱で大ヒットしており、
シャンゼリゼの映画館で再観したものだった。

暗い港を眺めながら
パン(なかなかだった)とチーズでワインを飲み干し、
長かったはしご酒の一日はこれにてお開きと相成りました。

=おしまい=

「市民酒場 常盤木」
 神奈川県横浜市西区戸部町5-179
 045-231-8745