2015年7月7日火曜日

第1136話 偶然の澄ましバター (その6)

鍋の湯を沸かすためのガス火をつけっ放しにしたために
偶然に発生した澄ましバター。
おかげで話題がはるか昔のロンドンに飛んでいる。

こちらもまた偶然に同じ町の住民と判明したマドモアゼルMichelleと
恋仲になるのにさほど時間を要しなかった。
彼女から教わって
のちのちわが人生に多大な影響を及ぼすこととなった重要なものは二つ。

第一にフランス煙草である。
当時、こちらはイギリス煙草のロスマンズやシルクカットを喫していたが
あちらはジタンかゴロワーズ。

 ♪  いつか忘れていった こんなジタンの空箱 ♪

庄野真代の「飛んでイスタンブール」の冒頭に登場するあのジタンだ。
エジプト葉を使用するジタン、ゴロワーズは
紙巻なのに葉巻に限りなく近い。
慣れるとヤミつきになって、元には戻れない。

第二はフランス音楽である。
彼女の部屋にあったシャンソンやフレンチポップスにはハマりましたネ。
中でも今話題のギリシャから逃れてきた、
ジョルジュ・ムスタキの手になる1曲は生涯忘れ得ない。

曲名は「マ・リベルテ(僕の自由)」。
殊に心動かされた歌詞は2番のラストだ。

 ♪   J'ai change de pays
   J'ai perdu mes amis
   Pour gagner ta confiance ♪


訳してみると、

生まれた国を捨て、多くの友を失ったのも
すべてキミ(自由)の信頼に応えるためサ。

ということになる。

国を捨て、縄張りを捨て・・・
何だか赤城山における国定忠治の名ゼリフを彷彿させるものがある。

往時のギリシャは残虐な軍事政権下。
国民のあいだに多くの悲劇が生まれていたのだ。
イヴ・モンタンが主役を演じた映画、
コスタ・ガブラス監督の「Z」にそのへんのことは詳しい。
ご興味のある方はDVDをご覧くだされ。

ところで、名曲「マ・ルベルテ」。
ロンドンで聴いたのはオリジナルのムスタキではなかった。
それでは誰が歌っていたのでしょう?

=つづく=