2015年7月22日水曜日

第1147話 なかにし礼を聴く (その2)

なかにし礼を世に送り出したのは
あの石原裕次郎だと言っても過言ではない。
いや、断言してもよい。

まだ無名だった、なかにし礼、
「涙と雨にぬれて」には少なからず自信があるとみえて
裕次郎率いる石原プロに持ち込んだのだった。
おそらくデモテープと譜面を携えてネ。

実はこの数年前、
単身ヨットで太平洋横断を成し遂げた時の人、
堀江謙一青年をモデルにした、
日活映画「太平洋ひとりぼっち」のロケのため、
伊豆半島の下田に滞在中の裕次郎と
当地のホテルのバーで遭遇している。

バー・カウンターで言葉を交わすうち、
「シャンソンの訳詞なんかやめて自分で何か書きなさいヨ」ー
そう激励さたのだった。

石原プロに現われたなかにしを裕次郎も覚えていたのだろう。
無碍にできるハスもなく、
腹心の渡哲也に「ちょっと面倒みてやれヨ」―
そんな発言があったことは想像に難くない。

こうして作詞家デビューをはたしたなかにし礼。
石原軍団の根回しにより、
「涙と雨にぬれて」をカバーしたのは
和田弘とマヒナスターズ&田代美代子だった。

作詞家としては裕次郎に歌ってほしかったに相違ない。
ムード歌謡の流れを汲んだデュエット向けの曲調は
すでに「銀座の恋の物語」、「夕陽の丘」のデュエット・ナンバーを
ヒットさせた大スターにしっくりくるものがあったと思う。

シャンソンにしてタンゴの名曲「小雨降る径」を
想起させる「涙と雨にぬれて」は
当時一世を風靡していた、佐伯孝夫と吉田正の黄金コンビによる、
ロマン歌謡のように都会的な洗練さには欠けるものの、
甘やかなやさしいムードにはあふれていた。

恥ずかしながらJ.C.、ひと月前にうたともとカラオケに及んだ際、
ふとこの曲を思い出し、ぶっつけで歌ってみた。
覚えやすいメロディーなので無難にこなせたが
残念なことにオリジナルがオケにないのだ。
マヒナ&美代子ではなく、
ロス・インディオスのバージョンでは
デュエットしにくいことこのうえなかった。

ここで恒例のなかにし礼、マイ・ベストテンの披露と相成るのだが
現在、再発したガンと闘病中の主役を励ますため、
思い切ってベストトウェンティに挑戦しようと奮起する。

=つづく=