2015年7月8日水曜日

第1137話 偶然の澄ましバター (その7)

J.C.がまだハタチそこそこだったロンドン時代。
ジョルジュ・ムスタキ作詞・作曲の「マ・リベルテ」を盛んに聴いていた。
歌っていたのはイタリア生まれのフランス俳優、
セルジュ・レジアニでありました。

本邦においてはレジアニと表記されることが多いけれど、
当時のモン・シェリー、Michelleの発音はレジャニーだった。
フランス人が言うんだから、まず間違いはあるまい。
レジャニーはフランスの暗黒映画、
いわゆるフィルム・ノワールには必要欠くべからざる名脇役なのだ。

日本ではなじみが薄いものの、
リノ・ヴァンチュラとアラン・ドロンが共演した、
ロベルト・アンリコ監督の「冒険者たち」をご記憶の方は少なくなかろう。
劇中、コンゴ動乱のドサクサで財宝ごと海に沈んだプロペラ機の情報を
主役の二人に提供するパイロットに扮したのがレジャニーだ。

フィルム・ノワールの第一人者、
ジャン=ピエール・メルヴィルの佳作に「いぬ」がある。
この作品では一枚看板のジャン=ポール・ベルモンドに
勝るとも劣らぬ存在感を示していた。

夜更けにハムのサンドイッチをほおばるシーンが今も忘れられない。
このハムサンドは日本のコンビニで売られている、
チンケな三角サンドなんかじゃありませんゾ。
長いバゲットに無造作にハムがはさみ込まれたヤツで
いかにもフランス的だった。

ハム(ジャンボン)そのものだって
今流行りの生ハム(ジャンボン・クリュ)なんかじゃない。
ごくフツーなんだが、正統派のソレだった。
いや、実にカッコよかったなァ。
初めてパリを訪れた19歳のJ.C.は
さっそくコイツをいただいたが、とても味わい深いものでありました。

つい、数年前のこと。
未観だったオードリー・ヘップバーンのデビュー作、
「初恋」がひかりTVでオンエアされた。
歓んで観ていると、くだんのレジャニーが
真面目な青年役で登場してきたじゃないの。
意表を衝かれてしまい、危うくカウチから転がり落ちそうになった。

彼の本業はもちろん俳優ながら
シャンソン歌手としても高い評価を得ている。
大御所のイヴ・モンタン、あるいは中御所のジャック・ブレル、
彼らを引き合いに出すまでもなく、
フランス映画界には歌唱力に長けた名優が相当数いる。
日本なら鶴田浩二・石原裕次郎・小林旭といったところでしょう。

えっ、アラン・ドロンは? ってか?
お生憎さま、ドロンは駄目だネ。
先述した「冒険者たち」にまつわる曲を歌ってはいるが・・・
と、ここまで来て以下は次話です。

=つづく=