2015年7月9日木曜日

第1138話 偶然の澄ましバター (その8)

ドロンの歌唱力であったが
かつてフランス映画界きっての二枚目も歌はからっきし。
運動神経は欧米の俳優では断トツなのに
天は二物を与えなかったのだろう。

ただし、彼の名誉のためにひとこと付け加えると、
ダリダの名唱、「甘いささやき」における、
語りと言おうか、合いの手と言うか、アレだけはよかった。
邦楽ヴァージョン、中村晃子&細川俊之のソレと比べたら
それこそ雲泥の差もいいところでこの点はサポートしておきたい。

えっ、ベルモンドはどうだってか?
ハッキリ言って論外ぞなもし。
いや、決めつけるには情報不足だけれど、
ジャン=ポールの歌なんて前代未聞だもの。
だったら、フランス男優のレジェンド的存在、
ジャン・ギャバンに登場願おう。
「望郷(ペペル・モコ)」ではアルジェのアパルトマンの屋上で
気持ちよさそうに歌い放っていたものなァ。

ここで突如、

 ♪  俺は想う 海の彼方を
   
   空は青空だ 心がはずむぜ
   波止場に咲いた恋は 楽しいものだぜ
   白い雲 いつも流れるのサ

   海の色は青 潮の香匂う
   紅の波止場だぜ 太陽は燃える
   あかね雲 楽しく歌うのサ     ♪

         (作詞:中川誠)

昭和30年代前半、デビュー間もない石原裕次郎の
「赤い波止場」はそのまま映画化されて
劇中、どこぞのビルの屋上で熱唱されたのだが
あれはモロに「ペペル・モコ」のパクリだネ。

当時のプログラム・ピクチャーは恥も外聞もなく、
とにかく当たればそれでヨシ。
黙っていても観客が押しかけるから
映画会社も出演者もノルマを果たすのに四苦八苦で
仕上がりの良し悪しなんて二の次だった。

今、コレを書きながら
ムスタキとレジャニーの「マ・リベルテ」を聴き比べている。
ムスタキは弾き語りのフォーク調。
小さなホールのライブ録音は
聴衆の拍手やさんざめきをも収めている。
これが意外なことに
どことなく、ガロの「学生街の喫茶店」を偲ばせるのだ。

=つづく=