2015年9月2日水曜日

第1177話 池波翁の「銀座日記」 (その24)

引き続き(テレビづけの正月)

昨日、第一食は鳥南ばんを食べて、
久しぶりに山の上ホテルへ行く。
年末は数日、何処かへ行っていないと家の女たちが困る。
大掃除をするからだ。
夜テレビで、大岡政談[魔像]を、杉良太郎が演(や)る。
これを大河内伝次郎の主演で観たのは、
まだ私が小学生のころだった。

快晴の朝、ホテルに近いうどんや[M]へ行く。
きょうはあたたかい山かけそばにする。
それから散髪。
やはり行きつけの床屋がよい。
夜はホテル内の天ぷら。
昨日は、あまり食べられなかったが今夜は、
コースをほとんど食べられた。
突き出しの白魚をさっと煮たのがよかった。
これほどに食欲があると自分でも安心をする。

うどんや[M]は駿河台に近い猿楽町にある[松翁]のこと。
古くから行きつけた神田須田町(旧連雀町)の[まつや]ではない。
[松翁]はうどんも供するがメインは蕎麦だ。
「銀座百点」の読者には[松翁]を[まつや]と
取り違えている向きが相当数いるのではないか。
J.C.は蕎麦そのものも、店内の雰囲気も、[まつや]のほうがずっと好き。
数年前に失火で焼け、再建された近隣の[かんだやぶそば]よりもなお、
[まつや]を愛好している。

平成二年の元旦、快晴なり。
朝、入浴をする。
例年のごとく、雑煮とおせちの第一食。
夜は、亡師・長谷川伸の原作による[荒木又右エ門]を
テレビでやったので、二時間余もかかって全部観る。
原作は時代小説のドキュメントのおもむきをそなえた傑作だが、
テレビ化にあたって、これを忠実に構成化し、
すばらしい出来栄えとなった。
主演の仲代達矢以下、出演の人びと、いずれも気が入っていて、
ことに平幹二朗、緒方直人の河合父子が最後の別れをするシーンなどは、
両人とも、本当の泪が出たほどだった。
原作のちからだ。
吉右衛門の語りも荘重でよかった。

きょうもテレビを観る。
十二時間もかけての[宮本武蔵]つづいて[緋ぼたんのお竜]を観て、
一日、つぶれてしまう。
やはりテレビはクセになる。
つとめて観ないようにしてはいるのだが・・・。

テレビづけといっても商売柄か、
ご覧になっているのはもっぱら時代劇ばかり。
でも、その気持ちはよく判ります。

=つづく=